文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

J・L・ボルヘス『創造者』

J・L・ボルヘス 鼓直

『創造者』 岩波文庫

 

J・L・ボルヘス(1899-1986)の『創造者』を読了しました。小説や評論の分野で多大な影響力を残したボルヘスですが、その詩作の分野で代表的な作品のひとつが1960年に発表された本書であるとのこと。詩集というよりは、評論を含めた雑文もいっしょくたに編集された詩文集と呼ばれるべきものになっています。

 

作者であるボルヘス自身がエピローグにおいて語るように、「これまで公刊したすべての書物のなかでも、とりとめない寄せ集めと見えるこの雑簒ほど個性的なものは他にないと思う」とされる本書ですが、チェスをモチーフにして臆面もなく無邪気にイメージの翼を広げる「象棋」などを読むにつけ、ボルヘスの魅力はその率直さにあるのではないかという気がしてくるのでした。

 

【満足度】★★★☆☆

パトリック・モディアノ『ある青春』

パトリック・モディアノ 野村圭介訳

『ある青春』 白水Uブックス

 

パトリック・モディアノ(1945-)の『ある青春』を読了しました。モディアノは何度読んでみても印象の変わらない不思議な作家のひとりです。霧中をさまようような読書体験で、後から振り返ってみてもエピソード的な記憶というよりは、断片的な淡いイメージのようなものしか心に浮かんできません。

 

モディアノの作品を何冊か読んでみて、決して嫌いではないのですが、個人的な読書体験としては捉えどころのないもので、何というか自分自身の読書の好みというものを浮かび上がらせてくれるような存在なのかもしれません。

 

【満足度】★★★☆☆

ウィリアム・バロウズ『裸のランチ』

ウィリアム・バロウズ 鮎川信夫

裸のランチ』 河出文庫

 

ウィリアム・バロウズ(1914-1997)の『裸のランチ』を読了しました。あらためてバロウズの経歴を調べてみるとハーバード大学の英文学専攻ということで、文学エリートを思わせる華やかな学歴と、猥雑で過激な作風でビートニクを代表する作家のひとりという知識との間にあるギャップを感じてしまいます。

 

本書を読んで見て感銘を受けたかと問われるとかなり微妙なところなのですが、もしかすると60年代に多く書かれたというSF作品の方をバロウズの入門編とするべきだったかもしれません。

 

【満足度】★★★☆☆

スティーヴン・キング『ダークタワーⅡ 運命の三人』

スティーヴン・キング 風間賢二訳

ダークタワーⅡ 運命の三人』 角川文庫

 

スティーヴン・キングの『ダークタワーⅡ 運命の三人』を読了しました。ダークファンタジーという世界観にはやはり馴染めぬところがあるものの、異世界を主な舞台とした前作から一転して、現実世界と思しき世界と不思議な扉でリンクすることで、主人公のガンスリンガーは「運命の三人」との出会いを果たします。この運命の三人はといえば、麻薬中毒者、二つの人格が内に住まう女性、そして無差別殺人愛好者と、いずれも闇を抱えた人物造形で、容易な感情移入を拒むものがあります。こうしたところはスティーヴン・キングらしいと思わされます。

 

現実世界で繰り広げられる物語とその描写の方に面白みを感じてしまうわけですが、この境界線の曖昧さを意識すること、そしてそれを解体することこそキングが意識していたことなのだとすれば、これから本シリーズを詠み進めていくうちに、私の予感は良い方向に裏切られるのかもしれません。

 

【満足度】★★★☆☆

カズオ・イシグロ『夜想曲集』

カズオ・イシグロ 土屋政雄

夜想曲集』 ハヤカワ文庫

 

カズオ・イシグロの『夜想曲集』を読了しました。現在のところ、刊行されている唯一の短編集ということになるのでしょうか。「音楽と夕暮れを巡る五つの物語」という副題が示すとおり、音楽を重要なモチーフとした五編の作品が収録されています。訳者あとがきによれば、書き溜めていた作品をまとめたものではなく、書き下ろしとして著されたものであるとのこと。

 

冒頭を飾る「老歌手」は短いながら奥行きのある作品で、かつて旅行したヴェネチアの町並みを思い出しながら、しんとした気持ちで読むことができました。「降っても晴れても」に見られるユーモア作家としての手筋は爽快で、こちらも楽しく読むことができました。総じて満足度の高い読書体験でした。

 

【満足度】★★★★☆

古川日出男『ハル、ハル、ハル』

古川日出男

『ハル、ハル、ハル』 河出書房新社

 

古川日出男の『ハル、ハル、ハル』を読了しました。2007年に出版された本書には、表題作のほかに、「スローモーション」、「8ドッグズ」という2篇の短編が収録されています。表題作は次のようなメタ的な言説から幕を開けます。

 

この物語はきみが読んできた全部の物語の続編だ。ノワールでもいい。家族小説でもいい。ただただ疾走しているロード・ノベルでも。

 

収束して現実へと至るまでの物語が続く間の高揚感を切り取った作品です。意図的に速度を重視した文体で綴られるこの技法の先にあるものが何であるのか、見極めたいと思うのですが。

 

【満足度】★★★☆☆

 

コルタサル『奪われた家/天国の扉 動物寓話集』

コルタサル 寺尾隆吉訳

『奪われた家/天国の扉 動物寓話集』 光文社古典新訳文庫

 

フリオ・コルタサル(1914-1984)の『奪われた家/天国の扉 動物寓話集』を読了しました。1951年に発表されたコルタサルの活動初期の短編集です。本書には8編の短編作品が収録されていますが、表題作の一つにもなっている「奪われた家」は、岩波文庫に収録された日本独自編集の短編集に「占拠された屋敷」として収められています。

 

「バス」という短編が心に残りました。同じくバスの中で直面する不条理な「暴力」が描かれている大江健三郎の「人間の羊」(1958年)が思い出されました。解説で言及されているように、この作品が時代の空気に反抗するものだったとすれば、それほど遠くない時代において地球の裏側で書かれた作品同士の違いを比べてみるのも面白いのかもしれません。

 

【満足度】★★★☆☆