文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ジョン・チーヴァー『巨大なラジオ/泳ぐ人』

ジョン・チーヴァー 村上春樹

『巨大なラジオ/泳ぐ人』 新潮社

 

 ジョン・チーヴァー(1912-1982)の『巨大なラジオ/泳ぐ人』を読了しました。雑誌『ザ・ニューヨーカー』御用達の作家で、短編小説の名手といわれたチーヴァーの選集です。作品のセレクトも村上春樹氏がされているようですね。

 

「ああ、夢破れし街よ」などが印象に残りましたが、どうせならピュリッツァー賞を受賞した原著に収められた61の短編をすべて訳出してほしかったところ。いつか原著の方を読むことができれば、と思います。

 

【満足度】★★★☆☆

R・ラードナー『アリバイ・アイク ラードナー傑作選』

R・ラードナー 加島祥造

『アリバイ・アイク ラードナー傑作選』 新潮文庫

 

R・ラードナー(1885-1933)の『アリバイ・アイク ラードナー傑作選』を読了しました。ラードナーは年代的にはヘミングウェイやフォークナーよりも少し上の世代に属し、若き日の彼らにも影響を与えたと言われているようです。その文学的バックグラウンドはマーク・トウェインによく似ていて、短編小説というよりもどちらかというとコラムや雑文のような文章を数多く物しています。野球を題材に取ったユーモラスなホラ話が印象的で、ニューヨーカーの短編選集でも読んだ記憶があります。

 

表題作の「アリバイ・アイク」や「ハーモニイ」をはじめとして、野球選手のプライベート(?)にスポットを当てた作品など、語り口のうまさもあって引き込まれてしまうのですが、まさに古き良き時代のアメリカの短編という印象で、楽しく読むことができました。

 

【満足度】★★★★☆

グレアム・スウィフト『ウォーターランド』

グレアム・スウィフト 真野泰訳

『ウォーターランド』 新潮社

 

グレアム・スウィフト(1949-)の『ウォーターランド』を読了しました。現代イギリス作家であるスウィフトの小説を読むのは中編作品『マザリング・サンデー』に続いて二冊目となります。本書は翻訳で500ページを越える長めの長編作品です。

 

歴史教師トム・クリックは、妻が引き起こした嬰児誘拐事件を契機として、校長ルイスから失職を迫られる立場にあります。トムは「一体歴史に何の意味があるのか」と問いかける生徒の言葉に対峙するかのように、授業のカリキュラムを逸脱して、フェンズと呼ばれる土地にまつわる自身と妻の一族に関わる歴史や、若き日の記憶を生徒に向かって語りかけます。本書帯に書かれたコメントを引用するならば「殺人ミステリーであり、一族の秘められた歴史であり、イングランドの水郷フェンズという土地そのものの記録であり(そしてなんと、ウナギをめぐる考察という驚くべき脱線もあり)、歴史の意味についての思索でもある」という何とも贅沢な作品となっています。

 

非常に緊密で優れた構成を持つ作品だと思いますし、感動を覚える場面も多々あります。たとえ筆のうまさが目についてしまったとしても、それを上回るパワーを持った作品でした。

 

【満足度】★★★★☆

J・M・クッツェー『夷狄を待ちながら』

J・M・クッツェー 土岐恒二訳

『夷狄を待ちながら』 集英社文庫

 

J・M・クッツェー(1940-)の『夷狄を待ちながら』を読了しました。本書はクッツェーの第三作目となる長編小説で、ブッカー賞を受賞した『マイケル・K』の三年前に発表された作品です。発表されたのは1980年で、まだ当時の南アフリカには厳しい検閲制度があったとのこと。『マイケル・K』とよく似た寓話的な作品ですが、そこへと至る前の萌芽といった印象も感じました。

 

辺境の町で民政官を勤める主人公は、蛮族である夷狄と通じたとして、中央から訪れた治安警察によって残酷な拷問を受けるのですが、その様子は時に本書が比せられるカフカの作品が持つ非現実性とは違って、本作において明らかにリアルな暴力として機能することを企図しているように思われます。やはり本書は同じくカフカとの関連が指摘される『マイケル・K』への必要な助走だったのではないかと感じます。

 

【満足度】★★★★☆

P・G・ウッドハウス『ジーヴズの事件簿 才知縦横の巻』

P・Gウッドハウス 岩永正勝小山太一編訳

ジーヴズの事件簿 才知縦横の巻』 文春文庫

 

P・Gウッドハウス(1881-1975)の『ジーヴズの事件簿 才知縦横の巻』を読了しました。イギリスのユーモア作家であるウッドハウスの「ジーヴスシリーズ」の作品を独自に編訳したものが本書です。

 

いまひとつジーヴスという人物に感情移入できなかったせいか、それほどには楽しむことができませんでした。金持ち階級への辛辣さばかりが目についてしまって、何となくこれは微妙な時代の移り変わりのせいではないかという気もするのでした。私が50年前の時代に生きて本書を読んだとすれば、もしかするともっと楽しめたのかもしれません。

 

【満足度】★★☆☆☆

ウンベルト・エーコ『バウドリーノ』

ウンベルト・エーコ 堤康徳訳

『バウドリーノ』 岩波文庫

 

ウンベルト・エーコ(1932-2016)の『バウドリーノ』を読了しました。イタリアの記号学者・哲学者であるエーコは、映画化もされたベストセラー小説の作家としてもよく知られています。中世ヨーロッパの修道院を舞台に本格ミステリの体裁で描かれた『薔薇の名前』を読んだのはたしか大学生の頃だったと思うのですが、彼の作品を読むのはそれ以来のことになります。

 

本作の舞台は十字軍の時代の神聖ローマ帝国で、相変わらずのエーコの博識ぶりが際立つのですが、その背景的知識を煙に巻くようなバウドリーノの「ほら吹き」ぶりによって、読者は幻惑されてしまうことになります。長い物語の途中で、いくぶん中だるみさせられてしまいながらも、時折ハッとさせられる描写もありました。

 

【満足度】★★★☆☆

『カート・ヴォネガット全短編 4 明日も明日もその明日も』

大森望 監修・浅倉久志 他 訳

カート・ヴォネガット全短編 4 明日も明日もその明日も』 早川書房

 

カート・ヴォネガット全短編 4 明日も明日もその明日も』を読了しました。ヴォネガットの短編全集は本書で最後となります。「ふるまい」、「リンカーン高校音楽科 ヘルムホルツ主任教諭」、そして「未来派」と、短編の分類セクションもトリッキーなものとなっていますが、合計5作品が収められた「ヘルムホルツ主任教諭」を通読すると同一人物を主人公とした連作短編集のような趣もあります。

 

投資顧問会社のセールスマンが語るポートフォリオのあり方に、短編作家としてのヴォネガットの新鮮な魅力を再発見しつつ、やはり長編作家としてのヴォネガットの偉大さを思い知らされる読書だったような気がします。いずれにしても、こうして短編全集を刊行してくれた早川書房には心からの賞賛の気持ちを送らせていただきたいと思います。

 

【満足度】★★★☆☆