文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

J・L・オースティン『オースティン哲学論文集』

J・L・オースティン 坂本百大監訳

『オースティン哲学論文集』 勁草書房

 

J・L・オースティン(1911-1960)『オースティン哲学論文集』を読了しました。発話行為という概念を提唱したイギリス日常言語学派の哲学者、オースティンの論文集です。収録された12の論文のテーマは多岐に渡り、アリストテレス倫理学アプリオリな概念、言語、真理など幅広い主題が論じられています。

 

並行して呼んでいるバリー・ストラウドの懐疑論に関する著作の中でオースティンの見解(本書に収録された論文「他人の心」)が取り上げられていたためにこのタイミングで読み始めた次第だったのですが、20世紀の「分析哲学」の歴史の多層性を思い知らされたような気がします。

 

【満足度】★★★☆☆

『中世イギリス英雄叙事詩 ベーオウルフ』

忍足欣四郎訳

『中世イギリス英雄叙事詩 ベーオウルフ』 岩波文庫

 

英文学最古の文献(諸説あるようですが本書解説によれば8世紀頃に成立したとされます)といわれることもある『ベーオウルフ』を読了しました。現在のデンマークであるデネの国を舞台として、巨人グレンデルやドラゴンとの戦いに挑む豪傑ベーオウルフの活躍を描いた叙事詩です。名剣を用いての異形のものの討伐といった図式に、ファンタジーの源流を見て取ることもできます。

 

【満足度】★★★☆☆

J・アップダイク『金持になったウサギ』

J・アップダイク 井上謙治

『金持になったウサギ』 新潮社

 

J・アップダイク(1932-2009)の『金持になったウサギ』を読了しました。『走れウサギ』(1960)、『帰ってきたウサギ』(1971)に続いて、1981年に発表されたウサギことハリー・アングストロームの人生を描くシリーズの三作目。アップダイクは本作で、ピューリッツァー賞、全米図書賞、全米批評家協会賞というアメリカの三大文学賞をすべて受賞しているというのですから、何ともすごい話ではあります。

 

46歳になったウサギは、妻ジャニスの実家である自動車販売店を継いで、本書のタイトルが示すとおり金持ちになっています。個人的にはロータリークラブの活動に参加するウサギの姿に、ちょっとした戸惑いを覚えてしまいました。折しも1980年代は円安の影響を受けて輸出産業が好調な日本の車が全米を席巻していた時代で、ハリーの会社スプリンガー・モータースもトヨタ車の販売で堅調な利益を上げています。そんな中、大学を休学して実家に戻ってきた息子のネルソンの存在を巡って、本書のプロットは展開していくことになるのですが、ネルソンは女友達のメラニーを実家に連れ帰ったかと思ったら、メラニーとは別の妊娠中の彼女プルーの存在が明らかになり、相変わらずウサギの家は外部からの闖入者によって、揺り動かされていくことになります。

 

第一作に登場するルースや、第二作でジャニスの浮気相手となるチャーリーなど、お馴染みの登場人物たちとも交流しながら、ハリーはひとつの透明な媒介としてこの時代のアメリカ社会を生きていこうとしているかのようです。訳者あとがきではウサギ四部作の第一作を宗教小説、第二作を政治小説、そして大三作の本書を経済小説とする批評が紹介されていますが、ハリーの自我の描かれ方という視点でみても、この図式には納得させられる部分があります。

 

以下は本書の末尾で、ネルソンの子どもであり自身の孫である赤ん坊の姿をハリーが眺める場面。

 

あらゆることを突き抜け、この子はここにでてきたのだ。彼の膝、彼の手の上で、ほとんど目方はないが、生きている本当の存在なのだ。足手まといになるかもしれぬ運命の人質、心の欲望、孫娘。自分のもの。自分の寿命を縮めるもの。自分のもの。

 

ハリーは実存への手掛かりを獲得することができるのか、最後の第四作目がどのような結末を迎えるのか気になるところです。

 

【満足度】★★★★☆

ロック『教育に関する考察』

ロック 服部知文訳

『教育に関する考察』 岩波文庫

 

ロック(1632-1704)の『教育に関する考察』を読了しました。認識論、道徳論、政治哲学、宗教論など幅広い分野で自身の思想を展開したロックですが、本書においてはその教育論を説いています。ルソーの『エミール』に受け継がれ、現在でもパブリック・スクールの鍛錬主義やオックスフォードでの個人指導制という形で行き続けているという彼の教育論は具体的で説得力があります。

 

【満足度】★★★☆☆

シェイクスピア『ロミオとジュリエット』

シェイクスピア 松岡和子訳

ロミオとジュリエット』 ちくま文庫

 

ちくま文庫シェイクスピア全集2『ロミオとジュリエット』を読了しました。松岡和子さんの訳によるこの全集を順番に読んでいきたいと考えているのですが、読み終えるまでにいつまでかかるでしょうか。全集自体の刊行は順調に進んでいるようです。

 

かつて読んだのは岩波文庫平井正穂さんの訳だったと思うのですが、その時に驚いたのはジュリエットの年齢が14歳に満たない設定であるということでした。恋愛悲劇というよりは、これは「アンファン・テリブル」ものではないのか、というのが当時の率直な印象だったのですが、本書巻末の解説を読んで、その考え方は改めさせられました。

 

【満足度】★★★☆☆

アーサー・C・クラーク『2001年宇宙の旅』

アーサー・C・クラーク 伊藤典夫

2001年宇宙の旅』 ハヤカワ文庫

 

アーサー・C・クラーク(1917-2008)の『2001年宇宙の旅』を読了しました。スタンリー・キューブリックの映画がつとに有名な本作ですが、残念ながら映画を見たことはなく、小説(本書)を読むのも初めてのことです。読み始める前の前提知識としてあった「人工知能ハルが乗務員を死に至らしめる行動を取り始める」というエピソードは、本書のごく一部を為しているに過ぎないことが解りました。

 

【満足度】★★★☆☆

D・デイヴィドソン『行為と出来事』

D・デイヴィドソン 服部裕幸・柴田正良訳

『行為と出来事』 勁草書房

 

D・デイヴィドソン(1917-2003)の『行為と出来事』を読了しました。本書はデイヴィッドソンの主として行為論に関わる論文を集めた“Essays on Actions and Events”の抄訳です。どうせなら全訳してほしかったところなのですが、いろいろな事情があったのでしょう。「行為・理由・原因」、「心的出来事」などの著名な論文が収録されているほか、行為文の論理形式や因果性に関する論考も含まれています。

 

【満足度】★★★☆☆