文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ジョージ・オーウェル『動物農場』

ジョージ・オーウェル 川端康雄訳

動物農場』 岩波文庫

 

ジョージ・オーウェル(1903-1950)の『動物農場』を読了しました。ディストピア小説である『1984年』の著者として知られるオーウェルのいわずと知れた寓話ですが、きちんと読むのは初めてのことのような気がします。オーウェルといえば、『カタロニア賛歌』や『パリ・ロンドン放浪記』などのルポルタージュをよく読んできたので、どちらかといえばそのイメージの方が強く残っています。

 

ソヴィエトとスターリンによる独裁を風刺的に描いた本書ですが、何かときな臭い世界情勢などを見るにつけ、これが遠い時代の出来事だとはとても思えない世の中になってきたと感じるのでした。

 

【満足度】★★★☆☆

ミシェル・ウエルベック『ある島の可能性』

ミシェル・ウエルベック 中村佳子

ある島の可能性』 角川書店

 

ミシェル・ウエルベック(1956-)の『ある島の可能性』を読了しました。2005年に発表された本書は、著者の小説作品としては五冊目のものとなります。『闘争領域の拡大』で開かれた問題圏を背景に、『素粒子』で胚胎された着想をSF的に展開しながら、『ランサローテ島』を舞台のひとつとして、『プラットフォーム』で描かれた絶望的な分断へと突き進んでいく本書のプロットは、まさに著者の集大成というべきものになっています。

 

僕の夢想は、感情らしきもので満たされている。僕はここに在りながら、もはやここにはいない。それでも生は実在する。

 

海を前にして無限なる概念というものの一端を理解する未来人の姿は、ウエルベックが描いてきた苦々しい現実の果てに見えてくるひとつの生の実相なのですが、そこへと至るために彼の作品のこれまであったのだと感じさせられます。

 

【満足度】★★★★☆

村上春樹『猫を棄てる 父親について語るとき』

村上春樹

『猫を棄てる 父親について語るとき』 文藝春秋

 

村上春樹の『猫を棄てる 父親について語るとき』を読了しました。これまでほとんど家族について語ることがなかった村上氏が父親の死を契機として、書き記しておかなければならないという思いから書き上げたのが本書とのこと。「猫を棄てる」というエピソードがタイトルに掲げられていますが、それよりはむしろ村上氏の父親の戦争体験を描くことを軸にして本書は著述されています。自身のルーツを探る旅というか、避けがたい課題として果たされたものという印象ですが、それを読んでどのように感じればよいのか、微妙な感情も残ります。

 

【満足度】★★★☆☆

ゴーゴリ『鼻/外套/査察官』

ゴーゴリ 浦雅春

『鼻/外套/査察官』 光文社古典新訳文庫

 

ゴーゴリ(1809-1852)の『鼻/外套/査察官』を読了しました。ウクライナ出身のロシア作家ゴーゴリの代表的な短編作品と戯曲作品が収録されています。「鼻」と「外套」は他の訳でも読んだことがあったと思いますが、「査察官」(これまでは「検察官」と訳されることが多かったようですが)を読むのは初めてのことでした。

 

本書のようにゴーゴリの作品を落語調で訳すことの意図は、これまでのゴーゴリ受容におけるイメージを覆そうという狙いにあるのだと思いますが、『死せる魂』を読んだときに覚えた違和感ほどには今回の訳が気にならなかったのは、本書に収録された作品がいずれも短い作品だからということもあるのでしょうか。

 

【満足度】★★★☆☆

大江健三郎・古井由吉『文学の淵を渡る』

大江健三郎古井由吉

『文学の淵を渡る』 新潮文庫

 

大江健三郎古井由吉の対談集『文学の淵を渡る』を読了しました。戦後日本を代表する作家である大江健三郎古井由吉との間で行われた、古くは1993年、最近のものでは2015年の対談を収録したのが本書です。「百年の短編小説を読む」という企画がとりわけ秀逸で、日本近現代文学をあらためて読んでみたくなる対談でした。

 

【満足度】★★★☆☆

『対訳 イェイツ詩集』

高松雄一

『対訳 イェイツ詩集』 岩波文庫

 

高松雄一編『対訳 イェイツ詩集』を読了しました。アイルランドの詩人・劇作家であるイェイツ(1865-1939)の対訳詩集で、本書には54編の詩が収録されています。二十世紀に活躍したイェイツは、世界文学の詩人としては比較的新しい時代の人であるという印象なのですが、本書カバーの紹介によると「芸術至上主義、象徴主義神秘主義、オカルティズム、アイルランド民族意識と神話伝説等々の複合体」といわれる彼の詩の全体像は、随分とヘテロなものだったようです。その捉えどころの無さによるものなのか、初読の今回はあまり印象に残る詩は見当たらなかったのでした。

 

【満足度】★★★☆☆

ディケンズ『荒涼館』

ディケンズ 佐々木徹訳

『荒涼館』 岩波文庫

 

ディケンズ(1812-1870)の『荒涼館』を読了しました。原題は“Bleak House”です。1852年から1853年にかけて発表された小説で、『デイヴィッド・コパフィールド』の次に書かれた作品になります。「ジャーンダイス対ジャーンダイス」訴訟を背景に、イギリス・ヴィクトリア朝の腐敗した訴訟制度が描かれ、数十名の登場人物からなる悲喜劇が描かれています。

 

全知の語り手と物語の登場人物の一人であるエスターが交互に語り手訳を務めるという、一風変わった手法で描かれていますが、当時の社会を俯瞰的に描く視点とその中で生きる市井の人物の視点の両方を取り入れたかったということなのでしょうか。翻訳にして全四巻という長さは、探偵小説的な要素も取り入れて読者の興味関心を惹きながらも、いささか冗長に感じられてしまうものではありました。

 

【満足度】★★★☆☆