文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

エルモア・レナード『オンブレ』

エルモア・レナード 村上春樹

『オンブレ』 新潮文庫

 

エルモア・レナード(1925-2013)の『オンブレ』を読了しました。エルモア・レナードエドガー賞も受賞したアメリカのミステリ畑の作家ですが、私が彼の作品を読むのは初めてのことでした。村上氏による翻訳で「のんびり楽しんで」と日本の読者に向けて差し出された西部劇小説ですが、正直なところ、あまり読み応えのようなものは感じられませんでした。読むタイミングが良くなかったのでしょうか。

 

【満足度】★★☆☆☆

J・L・ボルヘス『ブロディーの報告書』

J・L・ボルヘス 鼓直

『ブロディーの報告書』 岩波文庫

 

J・L・ボルヘス(1899-1986)の『ブロディーの報告書』を読了しました。本書はアルゼンチンの作家ボルヘスの短編作品集で、比較的晩年になって発表された作品のようです。収録された作品群が持つ性格については、訳者による解説で述べられていますが、私の印象としては、マーク・トウェインの短編からユーモアを取り去ったような、かなり物足りないものではあったのですが…

 

【満足度】★★☆☆☆

納富信留『プラトンとの哲学 対話篇を読む』

納富信留

プラトンとの哲学 対話篇を読む』 岩波新書

 

納富信留の『プラトンとの哲学 対話篇を読む』を読了しました。著者自身が「あとがき」において触れているように、既に岩波新書にはプラトンを主題とした作品が2つもラインナップされています。そのうちの一冊は藤沢令夫氏の『プラトンの哲学』で、誰が見ても明らかな名著なわけですが、そのような中で新たに本書を世に出した著者の気概にはやはり驚かされます。

 

そしてその本書の内容はといえば、プラトンの著作が持つ「対話篇」という特質を十二分に引き受けて展開したもので、プラトン哲学が有する哲学の実践としてのスリリングな部分を素晴らしいかたちで哲学的な解説へと落とし込んだものになっています。『ゴルギアス』をテーマにソクラテスよりも論敵であるカリクレスへの共感を語る姿勢など、ハッとさせられる場面がいくつもあり、感動させられました。

 

【満足度】★★★★☆

フォースター『ハワーズ・エンド』

フォースター 吉田健一

ハワーズ・エンド』 河出書房新社

 

E・M・フォースター(1879-1970)の『ハワーズ・エンド』を読了しました。池澤夏樹氏の個人編集による世界文学全集の一冊として刊行されたもので、フォースターの作品に触れること自体が私にとっては初めてのことになります。『ハワーズ・エンド』は20世紀前半に活躍したイギリスの作家フォースターの代表作とのこと。

 

シュレーゲル家とウィルコックス家という対照的な2家族の間での複雑な交流を中心軸として、階級や家族を巡る価値観の揺れ動きのなかで両家の人間模様が描かれていきます。ジェーン・オースティンの『高慢と偏見』のような筋立てですが、それほどには明朗だったり無垢だったりはせず、本書を面白がるための勘所のようなものは最後まで私には解らず仕舞いでした。

 

【満足度】★★★☆☆

星野智幸『目覚めよと人魚は歌う』

星野智幸

『目覚めよと人魚は歌う』 新潮文庫

 

星野智幸の『目覚めよと人魚は歌う』を読了しました。2000年に発表された三島賞受賞作です。日系ペルー人を主人公に据えた著者の視点は、その経歴からしてもグローバルなもので、ただそれだけでもフォローしたい作家の一人なのですが、擬似家族なるものを媒介にして人称をぐにゃぐにゃと入れ替えながら紡がれる物語からにじみ出る詩情というものが本書の価値なのだと思います。

 

【満足度】★★★☆☆

ウィルフリド・セラーズ『経験論と心の哲学』

ウィルフリド・セラーズ 浜野研三訳

『経験論と心の哲学』 岩波書店

 

ウィルフリド・セラーズ(1912-1989)の『経験論と心の哲学』を読了しました。ローティによる序文とブランダムによる詳細な手引きが付されて一冊の書籍として刊行されていますが、本論自体は少し長めの論文といったほどの分量です。いわゆる「所与の神話」を否定して、非概念的な「所与」が概念的なものである知識(命題)を正当化するという構図の倒錯を開示してみせた、20世紀における記念碑的な論文の一つであると言ってよいものでしょう。

 

【満足度】★★★★☆

内田百閒『ノラや』

内田百閒

ノラや』 中公文庫

 

内田百閒(1889-1971)の『ノラや』を読了しました。愛猫「ノラ」と「クルツ」を巡って描かれたエッセイ(と言ってよいのでしょうか)が14編収められています。ペットロス文学というのか何というのか、不思議な連作です。

 

【満足度】★★★☆☆