文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

フランス文学

サン=テグジュペリ『ちいさな王子』

サン=テグジュペリ 野崎歓訳 『ちいさな王子』 光文社古典新訳文庫 サン=テグジュペリ(1900-1944)の『ちいさな王子』を読了しました。日本でも大人気の本作品については、翻訳出版権がなくなってから多くの翻訳が出されましたが、岩波書店の内藤濯訳以外を…

ピエール・ルメートル『僕が死んだあの森』

ピエール・ルメートル 橘明美訳 『僕が死んだあの森』 文春文庫 ピエール・ルメートル(1951-)の『僕が死んだあの森』を読了しました。比較的短い作品なのですが、よく出来たクライムノベルです。作者お得意の意外な展開はやや影を潜めているというか、若干…

ル・クレジオ『嵐』

ル・クレジオ 中地義和訳 『嵐』 作品社 ル・クレジオ(1940-)の『嵐』を読了しました。表題作ともなっている「嵐」と「わたしは誰?」という邦題の付された二篇の中編小説が収録されています。前者は作者が深い関心を寄せる国である韓国南部の小島を舞台に…

『モーパッサン短編集Ⅱ』

モーパッサン 青柳瑞穂訳 『モーパッサン短編集Ⅱ』 新潮文庫 『モーパッサン短編集Ⅱ』を読了しました。全三冊として編集されている新潮文庫のモーパッサン短編選集の二冊目である本書には「都会もの」としてテーマ付けられた作品群が収録されています。 有名…

ピエール・ルメートル『監禁面接』

ピエール・ルメートル 橘明美訳 『監禁面接』 文春文庫 ピエール・ルメートルの『監禁面接』を読了しました。グロテスクな悪意をグロテスクな悪意のままに描くこと、そしてその悪意に亀裂を入れるためには多くの犠牲を伴わなければならないことを作者は知悉…

エクトール・マロ『家なき子』

エクトール・マロ 村松潔訳 『家なき子』 新潮文庫 エクトール・マロ(1830-1907)の『家なき子』を読了しました。フランスの児童文学として知られる作品ですが、完訳は少なく、このたび手に取りやすい新潮文庫で全訳が出版されるのは喜ばしいことです。主人…

ポール・アルテ『第四の扉』

ポール・アルテ 平岡敦訳 『第四の扉』 ハヤカワ文庫 ポール・アルテの『第四の扉』を読了しました。ディクスン・カーに影響を受けたというフランスのミステリー作家のデビュー作品が本書です。本書の解説において麻耶雄嵩氏が指摘しているように、トリック…

ル・クレジオ『隔離の島』

ル・クレジオ 中地義和訳 『隔離の島』 ちくま文庫 ル・クレジオの『隔離の島』を読了しました。原題は“La Quarantaine”で「検疫」を意味していますが、物語自体もフランスからモーリシャスへと向かう船内で発生した天然痘のために、登場人物たちが目的地近…

ミシェル・ウエルベック『セロトニン』

ミシェル・ウエルベック 関口涼子訳 『セロトニン』 河出書房新社 ミシェル・ウエルベックの『セロトニン』を読了しました。世界中で注目される作家の最新作品ですが、日本で翻訳書が出版されてからも随分と時間が経過してしまいました。愛を巡る現代人の絶…

J・K・ユイスマンス『さかしま』

J・K・ユイスマンス 澁澤龍彦訳 『さかしま』 河出文庫 J・K・ユイスマンス(1848-1907)の『さかしま』を読了しました。ユイスマンスはゾラの門下グループとしてそのキャリアを出発しながら、やがてゾラの提唱する自然主義を離れて19世紀末特有の厭世観…

J・M・G・ル・クレジオ『パワナ―くじらの失楽園』

J・M・G・ル・クレジオ 菅野昭正訳 『パワナ―くじらの失楽園』 集英社 J・M・G・ル・クレジオ(1940-)の『パワナ―くじらの失楽園』を読了しました。1992年に発表された作品で、短編と言うべき長さのものになっています。タイトルの「パワナ」とは鯨のことで…

ヴォルテール『カンディード 他五篇』

ヴォルテール 植田祐次訳 『カンディード 他五篇』 岩波文庫 ヴォルテール(1694-1778)の『カンディード 他五篇』を読了しました。「コント」というのは、もともとフランス語で短い寸劇のことを意味するそうですが、本書にはヴォルテールの代表的なコントの…

バタイユ『マダム・エドワルダ/目玉の話』

バタイユ 中条省平 『マダム・エドワルダ/目玉の話』 光文社古典新訳文庫 バタイユ(1897-1962)の『マダム・エドワルダ/目玉の話』を読了しました。本書に収録された二作品のうち、「目玉の話」については『眼球譚』として一年ほど前に河出文庫の翻訳で読…

J. M. G. ル・クレジオ『砂漠』

J. M. G. ル・クレジオ 望月芳郎訳 『砂漠』 河出書房新社 J. M. G. ル・クレジオ(1940-)の『砂漠』を読了しました。1980年に発表された本書は、義務兵役代替のために訪れたメキシコ文化への傾倒と本格的な研究をひとつのバックボーンとして生み出されたと…

モンテーニュ『エセー』

モンテーニュ 原二郎訳 『エセー』 岩波文庫 モンテーニュ(1533-1592)の『エセー』を読了しました。言わずと知れた「エッセイ」というジャンルのもととなった作品です。ただ、内容としては日常的な随想というよりは、政治、社会、詩に関するテーマが多く、…

『オルラ/オリーヴ園 モーパッサン傑作選』

太田浩一訳 『オルラ/オリーヴ園 モーパッサン傑作選』 光文社古典新訳文庫 『オルラ/オリーヴ園 モーパッサン傑作選』を読了しました。光文社古典新訳文庫で刊行されているモーパッサンのオリジナル編集の短編作品集です。後期の作品の中かからセレクトさ…

ピエール・ルメートル『わが母なるロージー』

ピエール・ルメートル 橘明美訳 『わが母なるロージー』 文春文庫 ピエール・ルメートル(1951-)の『わが母なるロージー』を読了しました。カミーユ・ヴェルーヴェン警部を主人公とする作品は三作品で完結していたはずなのですが、いわば番外編のようなかた…

ロマン・ロラン『ベートーヴェンの生涯』

ロマン・ロラン 片山敏彦訳 『ベートーヴェンの生涯』 岩波文庫 ロマン・ロラン(1866-1944)の『ベートーヴェンの生涯』を読了しました。大河小説『ジャン・クリストフ』の作者であるロマン・ロランは多くの伝記作品も残しているのですが、その代表作のひと…

ピエール・ルメートル『死のドレスを花婿に』

ピエール・ルメートル 吉田恒雄訳 『死のドレスを花婿に』 文春文庫 ピエール・ルメートル(1951-)の『死のドレスを花婿に』を読了しました。カミーユ・ヴェルーヴェン警部を主人公とする「容赦の無い」サスペンスプロットで知られるルメートルが2009年に発…

A・デュマ『ダルタニャン物語』

A・デュマ 鈴木力衛訳 『ダルタニャン物語』 ブッキング アレクサンドル・デュマ・ペール(1802-1870)の『ダルタニャン物語』を読了しました。日本でもつとに有名な『三銃士』(1844)を嚆矢として、『二十年後』(1845)、そして『ブラジュロンヌ子爵』(1…

モーパッサン『メゾン テリエ 他三篇』

モーパッサン 河盛好蔵訳 『メゾン テリエ 他三篇』 岩波文庫 モーパッサン(1850-1893)の『メゾン テリエ 他三篇』を読了しました。表題作の他に収録されているのは「聖水授与者」「ジュール伯父」「クロシェット」の三篇です。年代も様々に異なる作品がま…

フローベール『サラムボー』

フローベール 中條屋進訳 『サラムボー』 岩波文庫 フローベール(1821-1880)の『サラムボー』を読了しました。古代カルタゴを舞台に描かれたフローベールの長編第二作目です。前作である『ボヴァリー夫人』とはうってかわって紀元前の歴史に題材を得たフロ…

フローベール『三つの物語』

フローベール 谷口亜沙子訳 『三つの物語』 光文社古典新訳文庫 フローベール(1821-1880)の『三つの物語』を読了しました。フローベールが晩年に発表した「素朴な人」「聖ジュリアン伝」「ヘロディアス」の三編が収録された作品集です。未完に終わった長編…

モーパッサン『わたしたちの心』

モーパッサン 笠間直穂子訳 『わたしたちの心』 岩波文庫 モーパッサン(1850-1893)の『わたしたちの心』を読了しました。生涯で六編の長編作品を発表したモーパッサンですが、その最後の作品にあたるのが本書『わたしたちの心』です。訳者による解説でモー…

パトリック・モディアノ『失われた時のカフェで』

パトリック・モディアノ 平中悠一訳 『失われた時のカフェで』 作品社 パトリック・モディアノ(1945-)の『失われた時のカフェで』を読了しました。いくつかの視点から語られる「ルキ」を巡る物語は、これまでに読んだモディアノ作品と同様に、相変わらず霧…

『モーパッサン短編集Ⅰ』

モーパッサン 青柳瑞穂訳 『モーパッサン短編集Ⅰ』 新潮文庫 『モーパッサン短編集Ⅰ』を読了しました。フローベールへの師事のもと、作家となったモーパッサン(1850-1893)はわずか10年あまりの間に360編以上の短編・中編作品、7巻の長編作品、旅行記、戯曲…

モリエール『ドン・ジュアン』

モリエール 鈴木力衛訳 『ドン・ジュアン』 岩波文庫 モリエール(1622-1673)の『ドン・ジュアン』を読了しました。いわゆるスペインの「ドン・ファン」を題材にしたモリエールの戯曲作品です。表紙カバーに記された解説文では、モリエールのドン・ファン像…

モリエール『タルチュフ』

モリエール 鈴木力衛訳 『タルチュフ』 岩波文庫 モリエール(1622-1673)の『タルチュフ』を読了しました。コルネイユやラシーヌと共に17世紀フランスを代表する劇作家のひとりであるモリエールですが、悲劇よりは喜劇の分野で名を成した作品が多く、本書も…

ユーゴー『死刑囚最後の日』

ユーゴー 豊島与志雄訳 『死刑囚最後の日』 岩波文庫 ユーゴー(1802-1885)の『死刑囚最後の日』を読了しました。19世紀フランスのロマン主義を代表する詩人・作家であるヴィクトル・ユーゴーが若き日(1829)に発表した作品です。本書の冒頭に置かれた訳者…

ル・クレジオ『海を見たことがなかった少年 モンドほか子供たちの物語』

ル・クレジオ 豊崎光一・佐藤領時訳 『海を見たことがなかった少年 モンドほか子供たちの物語』 集英社文庫 ル・クレジオ(1940-)の『海を見たことがなかった少年 モンドほか子供たちの物語』を読了しました。1978年に発表された本書には、8編の短編が収録…