文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

フランス文学

J・M・G・ル・クレジオ『調書』

J・M・G・ル・クレジオ 豊崎光一訳 『調書』 新潮社 J・M・G・ル・クレジオ(1940-)の『調書』を読了しました。1963年に発表された本書はル・クレジオのデビュー作です。『大洪水』を読んだときにも感じたことですが、若き才能がほとばしる様を見せ付けられ…

ミシェル・ウエルベック『服従』

ミシェル・ウエルベック 大塚桃訳 『服従』 河出文庫 ミシェル・ウエルベック(1958-)の『服従』を読了しました。2015年に発表された本書は、これまでの彼の著作のどれにも増して論争(そしてある場合には実際的な暴力)の引き金になったといわれる作品です…

G・バタイユ『眼球譚〔初稿〕』

G・バタイユ 生田耕作訳 『眼球譚〔初稿〕』 河出文庫 G・バタイユ(1897-1962)の『眼球譚〔初稿〕』を読了しました。フランスの思想家であるバタイユが1928年に発表した小説です。当時は「オーシュ卿」という筆名で発表され、後に改稿された新版が出版され…

ジッド『未完の告白』

ジッド 新庄嘉章訳 『未完の告白』 新潮文庫 ジッド(1869-1951)の『未完の告白』を読了しました。『女の学校』、『ロベール』と共に三部作を成す作品とされ、原題は本書の訳題とは異なる『ジュヌヴィエーヴ』です。妻、夫、そして娘のそれぞれの視点から捉…

ル・クレジオ『悪魔祓い』

ル・クレジオ 高山鉄男訳 『悪魔祓い』 岩波文庫 ル・クレジオ(1940-)の『悪魔祓い』を読了しました。20代で作家デビューを果たした著者は、兵役義務の代替として派遣されたメキシコでの経験がきっかけとなってネイティブアメリカンの文化に魅せられ、そこ…

パトリック・モディアノ『ある青春』

パトリック・モディアノ 野村圭介訳 『ある青春』 白水Uブックス パトリック・モディアノ(1945-)の『ある青春』を読了しました。モディアノは何度読んでみても印象の変わらない不思議な作家のひとりです。霧中をさまようような読書体験で、後から振り返っ…

A・グリーン/G・トマージ・ディ・ランペドゥーサほか『短編コレクションⅡ』

A・グリーン/G・トマージ・ディ・ランペドゥーサほか 岩本和久/小林惺ほか訳 『短編コレクションⅡ』 河出書房新社 池澤夏樹氏による個人編集の世界文学全集から『短編コレクションⅡ』を読了しました。本書にはヨーロッパ・北米の作家19人の短編が収録され…

サン=テグジュペリ『人間の土地』

サン=テグジュペリ 堀口大學訳 『人間の土地』 新潮文庫 サン=テグジュペリ(1900-1944)の『人間の土地』を読了しました。8つの断章からなる作品で、連作短編集というには各篇の構成上の繋がりが薄く、長編作品というにはストーリーラインが定まらない、不…

アゴタ・クリストフ『どちらでもいい』

アゴタ・クリストフ 堀茂樹訳 『どちらでもいい』 ハヤカワ文庫 アゴタ・クリストフ(1935-2011)の『どちらでもいい』を読了しました。ハンガリー生まれで、スイスに移住してフランス語で小説を執筆したクリストフが『悪童日記』でデビューしたのは1986年の…

ミシェル・ウエルベック『地図と領土』

ミシェル・ウエルベック 野崎歓訳 『地図と領土』 ちくま文庫 ミシェル・ウエルベック(1958-)の『地図と領土』を読了しました。2010年に発表された本書のテーマを2つのキーワードで表すとすると「アートと資本主義」ということになると思うのですが、本書…

ジョルジュ・ペレック『煙滅』

ジョルジュ・ペレック 塩塚秀一郎訳 『煙滅』 水声社 ペレックの『煙滅』を読了。ペレックがこの本でたくらんだことを前もって把握せぬまま、この本を読む者はわずかだろうと考えるとすると、過度なネタバレへの恐れは無用なことなのですが、それでも本稿で…

ミシェル・ウエルベック『ある島の可能性』

ミシェル・ウエルベック 中村佳子訳 『ある島の可能性』 角川書店 ミシェル・ウエルベック(1956-)の『ある島の可能性』を読了しました。2005年に発表された本書は、著者の小説作品としては五冊目のものとなります。『闘争領域の拡大』で開かれた問題圏を背…

パトリック・モディアノ『暗いブティック通り』

パトリック・モディアノ 平岡篤頼訳 『暗いブティック通り』 白水社 パトリック・モディアノ(1945-)の『暗いブティック通り』を読了しました。ゴンクール賞の受賞作品である本書が発表されたのは1978年。日本ではその翌年に邦訳が出版されていますが、韓国…

ミシェル・ウエルベック『プラットフォーム』

ミシェル・ウエルベック 中村佳子訳 『プラットフォーム』 河出文庫 ミシェル・ウエルベック(1957-)の『プラットフォーム』を読了しました。2000年の『ランサローテ島』に続いて2001年に発表された本書で、ウエルベックが選んだのは「セックス観光」という…

フランソワ・ラブレー『第五之書 パンタグリュエル物語』

フランソワ・ラブレー 渡辺一夫訳 『第五之書 パンタグリュエル物語』 岩波文庫 フランソワ・ラブレー(1483?-1553)の『第五之書 パンタグリュエル物語』を読了しました。偽書という説も有力とされる本書では、ストーリー上は第四之書に記された航海の旅の…

フランソワ・ラブレー『第四之書 パンタグリュエル物語』

フランソワ・ラブレー 渡辺一夫訳 『第四之書 パンタグリュエル物語』 岩波文庫 フランソワ・ラブレー(1483?-1553)の『第四之書 パンタグリュエル物語』を読了しました。本書ではパニュルジュの結婚に関する神託を求めて航海の旅に出たパンタグリュエル一…

フランソワ・ラブレー『第三之書 パンタグリュエル物語』

フランソワ・ラブレー 渡辺一夫訳 『第三之書 パンタグリュエル物語』 岩波文庫 フランソワ・ラブレー(1483?-1553)の『第三之書 パンタグリュエル物語』を読了しました。このルネサンス期文学の古典も本作で三作目となります。第一之書と第二之書(実際の…

フランソワ・ラブレー『第二之書 パンタグリュエル物語』

フランソワ・ラブレー 渡辺一夫訳 『第二之書 パンタグリュエル物語』 岩波文庫 フランソワ・ラブレー(1483?-1553)の『第二之書 パンタグリュエル物語』を読了しました。実際には『第一之書』に先行して書かれたとされる本書は、第一之書の主人公であるガ…

アベ・プレヴォー『マノン・レスコー』

アベ・プレヴォー 青柳瑞穂訳 『マノン・レスコー』 新潮文庫 アベ・プレヴォー(1697-1763)の『マノン・レスコー』を読了しました。18世紀フランスの作家であるアベ・プレヴォーは100冊以上もの本を著した多作家だそうですが、今日に至るまで読み継がれて…

フランソワ・ラブレー『第一之書 ガルガンチュワ物語』

フランソワ・ラブレー 渡辺一夫訳 『第一之書 ガルガンチュワ物語』 岩波文庫 フランソワ・ラブレー(1483?-1553)の『第一之書 ガルガンチュワ物語』を読了しました。フランス・ルネサンス時代の作家ラブレーの手による巨人物語。本書には「第一之書」とい…

ピエール・ルメートル『天国でまた会おう』

ピエール・ルメートル 平岡敦訳 『天国でまた会おう』 ハヤカワ文庫 ピエール・ルメートル(1951-)の『天国でまた会おう』を読了しました。『その女アレックス』などのミステリー作品が日本でもヒットしたフランスの作家ルメートルが著した「文芸作品」(い…

レーモン・クノー『地下鉄のザジ』

レーモン・クノー 生田耕作訳 『地下鉄のザジ』 中公文庫 レーモン・クノー(1903-1976)の『地下鉄のザジ』を読了しました。フランス文学のいわゆる「ヌーヴォー・ロマン」や「ウリポ」の先駆的存在として有名なクノーは『文体練習』などの作品が有名ですが…

フローベール『感情教育』

フローベール 生島遼一訳 『感情教育』 岩波文庫 フローベール(1821-1880)の『感情教育』を読了しました。本書は『ボヴァリー夫人』、『サランボー』に続くフローベールにとって三作目となる長編小説。二月革命(1848)前後のパリを舞台にした青年フレデリ…

ミシェル・ウエルベック『ランサローテ島』

ミシェル・ウエルベック 野崎歓訳 『ランサローテ島』 河出書房新社 ミシェル・ウエルベック(1957-)の『ランサローテ島』を読了しました。本書はウエルベックが『素粒子』に続いて発表した短編小説です。2000年に発表された本書は、ウエルベック自身が実際…

ミシェル・ウエルベック『闘争領域の拡大』

ミシェル・ウエルベック 中村佳子訳 『闘争領域の拡大』 河出文庫 ミシェル・ウエルベック(1958-)の『闘争領域の拡大』を読了しました。奇妙なタイトルを持つ本書はウエルベックが初めて発表した小説で、どちらかというと中編小説というべき長さの作品です…

J・M・G・ル・クレジオ『大洪水』

J・M・G・ル・クレジオ 望月芳郎訳 『大洪水』 河出文庫 J・M・G・ル・クレジオ(1940-)の『大洪水』を読了しました。本書は彼のデビュー作である『調書』以前い書き始められたと言われる初期の長編作品です。「初めに雲があった」という言葉から始まるプロ…

ユルスナール『とどめの一撃』

ユルスナール 岩崎力訳 『とどめの一撃』 岩波文庫 ユルスナール(1903-87)の『とどめの一撃』を読了しました。ユルスナールの作品を読むのは今回が初めてです。ユルスナールのおよそ20歳年長であるヴァージニア・ウルフが『自分だけの部屋』の中で、その時…

サド『短編集 恋の罪』

サド 植田祐次訳 『短編集 恋の罪』 岩波文庫 サド(1740-1814)の『短編集 恋の罪』を読了しました。「サディズム」という言葉の由来となったといわれているフランス貴族、マルキ・ド・サドの短編選集です。本書カバーに描かれた解説によれば、本作に収録さ…

パトリック・モディアノ『さびしい宝石』

パトリック・モディアノ 白井成雄訳 『さびしい宝石』 作品社 パトリック・モディアノ(1945-)の『さびしい宝石』を読了しました。原題は“La petite bijou”で直訳だと「小さな宝石」となります。モディアノはナチス占領下時代のパリ(のみ)を舞台に作品を…

アンドレ・ジイド『贋金つくり』

アンドレ・ジイド 川口篤訳 『贋金つくり』 岩波文庫 アンドレ・ジイド(1869-1951)の『贋金つくり』を読了しました。ジッド(という表記の方がなじみがあるのでこうしますが)といえば『狭き門』など、思想的な清貧を前面に出した作風という勝手な思い込み…