文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

日本文学

古川日出男『ハル、ハル、ハル』

古川日出男 『ハル、ハル、ハル』 河出書房新社 古川日出男の『ハル、ハル、ハル』を読了しました。2007年に出版された本書には、表題作のほかに、「スローモーション」、「8ドッグズ」という2篇の短編が収録されています。表題作は次のようなメタ的な言説か…

乗代雄介『最高の任務』

乗代雄介 『最高の任務』 講談社 乗代雄介の『最高の任務』を読了しました。芥川賞候補作となった表題作のほか、「生き方の問題」という中編作品が収録されています。「生き方の問題」は、従姉弟同士の性愛という生々しいテーマを取り扱いながら、物語の核と…

村上春樹『パン屋再襲撃』

村上春樹 『パン屋再襲撃』 文春文庫 村上春樹の『パン屋再襲撃』を読了しました。最初に読んだのは高校時代くらいのことだったか、詳しくは忘れてしまったのですが、久しぶりの再読となりました。収録策の初出は1985年から1986年にかけて、表題作のほか「象…

北条裕子『美しい顔』

北条裕子 『美しい顔』 講談社 北条裕子の『美しい顔』を読了しました。第61回群像新人文学賞の受賞作で、芥川賞の候補作にもなった本書ですが、石井光太氏のノンフィクション作品をはじめとして、参考文献の取り扱いの杜撰さが批判を集めました。本書を読ん…

森見登美彦『熱帯』

森見登美彦 『熱帯』 文藝春秋 森見登美彦の『熱帯』を読了しました。『千夜一夜物語』を導きの糸とした物語で、「熱帯」という幻の本を巡るファンタジーが展開されます。沈黙読書会などディテールの面白さと物語を発散させていく手筋は相変わらず素晴らしく…

筒井康隆『残像に口紅を』

筒井康隆 『残像に口紅を』 中公文庫 筒井康隆の『残像に口紅を』を読了しました。ネタバレを気にするという作品でもないので、本書の核となる仕掛けにも触れようと思うのですが、本書は日本語の五十音が順番に消えていくなかで書かれた小説であり、そしてそ…

J・コルタサル/O・パスほか『短編コレクションⅠ』

J・コルタサル/O・パスほか 木村榮一/野谷文昭ほか訳 『短編コレクションⅠ』 河出書房新社 池澤夏樹個人編集による世界文学全集の一冊として刊行された『短編コレクションⅠ』を読了しました。南北アメリカ、アジア、そしてアフリカから短編小説が20篇収録…

七河迦南『アルバトロスは羽ばたかない』

七河迦南 『アルバトロスは羽ばたかない』 創元推理文庫 七河迦南の『アルバトロスは羽ばたかない』を読了しました。前作の『七つの海を照らす星』を読んだのはもう何年前のことだったか、詳細な内容も含めて思い出せないのですが、その続編である本書は国内…

滝口悠生『愛と人生』

滝口悠生 『愛と人生』 講談社文庫 滝口悠生の『愛と人生』を読了しました。表題作の「愛と人生」は、映画「男はつらいよ」を題材としてそのシリーズ中のひとりの人物を語り手として、誰もが知る大衆映画の実相を不思議な遠近法で眺める小説作品です。フルネ…

古川日出男『サウンドトラック』

古川日出男 『サウンドトラック』 集英社文庫 古川日出男の『サウンドトラック』を読了しました。本書が発表されたのは2003年のことで、これは直木賞候補となった『ベルカ、吠えないのか?』の2年前、三島由紀夫賞を受賞した『LOVE』の3年前に当たる年であり…

羽田圭介『スクラップ・アンド・ビルド』

羽田圭介 『スクラップ・アンド・ビルド』 文春文庫 羽田圭介の『スクラップ・アンド・ビルド』を読了しました。第153回芥川賞受賞作です。黒々とした荒涼とした風景の中から特異なユーモアを表出させるという作風ですが、読んでいて少し疲れてしまう部分も…

吉田修一『パーク・ライフ』

吉田修一 『パーク・ライフ』 文春文庫 吉田修一の『パーク・ライフ』を読了しました。第127回芥川賞受賞作である本書ですが、ハードカバーの単行本として刊行された当時に、手にとって読んだ記憶があります。今回、何となく思い立って文庫本で読み直してみ…

村上龍『半島を出よ』

村上龍 『半島を出よ』 幻冬舎文庫 村上龍の『半島を出よ』を読了しました。2005年に刊行された本書は、15年の歳月を経て読んでみると、あらためてその(一部の)リアリティに驚かされてしまうのですが、著者の別作品からのスピンオフと思しき登場人物たちが…

星野智幸『目覚めよと人魚は歌う』

星野智幸 『目覚めよと人魚は歌う』 新潮文庫 星野智幸の『目覚めよと人魚は歌う』を読了しました。2000年に発表された三島賞受賞作です。日系ペルー人を主人公に据えた著者の視点は、その経歴からしてもグローバルなもので、ただそれだけでもフォローしたい…

内田百閒『ノラや』

内田百閒 『ノラや』 中公文庫 内田百閒(1889-1971)の『ノラや』を読了しました。愛猫「ノラ」と「クルツ」を巡って描かれたエッセイ(と言ってよいのでしょうか)が14編収められています。ペットロス文学というのか何というのか、不思議な連作です。 【満…

島田荘司『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』

島田荘司 『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』 光文社文庫 島田荘司の『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』を読了しました。初めて読んだのは中学生の頃だったか高校生の頃だったか忘れてしまったのですが、何となく古本屋で手に取って久しぶりの読書となりました。コナン…

村田沙耶香『マウス』

村田沙耶香 『マウス』 講談社文庫 村田沙耶香の『マウス』を読了しました。本書は2008年に刊行された彼女にとって二冊目となる単行本です。現実との向き合い方に苦悩する主人公(や周囲の登場人物)が、奇妙な仕方で世界との折り合いを付けていき、その奇妙…

古川日出男『ゴッドスター』

古川日出男 『ゴッドスター』 新潮文庫 古川日出男の『ゴッドスター』を読了しました。2007年に発表された本書は、既に一定の読者と評価を得ていた著者が、単なる若書きということではなく極めて意図的に創作した作品なのだと推察しますが、作品の特徴を一言…

乗代雄介『十七八より』

乗代雄介 『十七八より』 講談社 乗代雄介の『十七八より』を読了しました。第58回群像新人文学賞受賞作で、著者のデビュー作品です。主人公である女子高生の日常が、著者の読書量に裏打ちされたペダンチックな筆致で描かれています。主人公の言動の裏側に見…

綿矢りさ『蹴りたい背中』

綿矢りさ 『蹴りたい背中』 河出文庫 綿矢りさの『蹴りたい背中』を読了しました。芥川賞最年少受賞ということで当時も大いに話題になった本書ですが、ふと読み返してみたくなって古本屋で文庫本を購入しました。発表当時も感じましたが、文学作品としては至…

滝口悠生『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』

滝口悠生 『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』 新潮文庫 滝口悠生の『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』を読了しました。滝口氏が芥川賞を受賞する前年に発表した作品で、著作としては三冊目にあたるのが本書です。まさに「体験」という他はない…

青木淳悟『匿名芸術家』

青木淳悟 『匿名芸術家』 講談社 青木淳悟の『匿名芸術家』を読了しました。「四十日と四十夜のメルヘン」で新潮新人賞を受賞してデビューした青木氏ですが、本作はその前日譚というか創作秘話のようなものを、いつもの如く奇妙な小説仕立てで描いてみせた作…

村上春樹『カンガルー日和』

村上春樹 『カンガルー日和』 講談社文庫 村上春樹の『カンガルー日和』を読了しました。初めて読んだのは高校生のときだったでしょうか、そのときには「図書館奇譚」や「あしか祭り」のような寓話性を含んだ作品が印象に残りましたが、今読み返してみると「…

池澤夏樹『スティル・ライフ』

池澤夏樹 『スティル・ライフ』 中公文庫 池澤夏樹の『スティル・ライフ』を読了しました。1988年に芥川賞を受賞した作品です。個人文学全集の編者として、また書評家としての池澤氏については知っているのですが、実際のところ小説を読むのは初めてのことで…

島本理生『リトル・バイ・リトル』

島本理生 『リトル・バイ・リトル』 講談社文庫 島本理生の『リトル・バイ・リトル』を読了しました。同時代の日本人作家の作品にももう少し触れておこうという意図をもって手に取った作品のひとつが本書です。家族や周囲の人々との係わり合いを、瑞々しく柔…

星新一『ようこそ地球さん』

星新一 『ようこそ地球さん』 新潮文庫 星新一(1926-1997)の『ようこそ地球さん』を読了しました。本書のあとがきによると、同じく新潮文庫に収められた『ボッコちゃん』が、単行本の『ようこそ地球さん』と『人造美人』からの自選短編といくつかの他の作…

大江健三郎『取り替え子』

大江健三郎 『取り替え子』 講談社文庫 大江健三郎の『取り替え子』を読了しました。もともと自身の私生活を文学的なモチーフを使って昇華しながら作品にしてきた大江氏ですが、本作の背景となっている俳優・映画監督の伊丹十三氏の自殺という出来事が、それ…

乗代雄介『本物の読書家』

乗代雄介 『本物の読書家』 講談社 乗代雄介の『本物の読書家』を読了しました。表題作である「本物の読書家」と「未熟な同感者」の二作が収録されています。縦横無尽に張り巡らされた古今東西の文学作品に関する言及や、ミステリー小説のように練られたプロ…

磯崎憲一郎『電車道』

磯崎憲一郎 『電車道』 新潮文庫 磯崎憲一郎の『電車道』を読了しました。文章も滑らかで引っかかることなく読むことができる物語ですが、約100年間に及ぶ私鉄電車の近代史を背景に、それぞれの人生を生きる幾人かの登場人物たちの姿は、どこか不思議な印象…

古川日出男『ルート350』

古川日出男 『ルート350』 講談社文庫 古川日出男の『ルート350』を読了しました。「物語」と表現しても良いし、本書における表現にならって「レプリカ」と読んでもいいわけですが、そこに立ち上がってくるものの助けを借りながら、あるいはそれに対して抗い…