文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

日本文学

星野智幸『目覚めよと人魚は歌う』

星野智幸 『目覚めよと人魚は歌う』 新潮文庫 星野智幸の『目覚めよと人魚は歌う』を読了しました。2000年に発表された三島賞受賞作です。日系ペルー人を主人公に据えた著者の視点は、その経歴からしてもグローバルなもので、ただそれだけでもフォローしたい…

内田百閒『ノラや』

内田百閒 『ノラや』 中公文庫 内田百閒(1889-1971)の『ノラや』を読了しました。愛猫「ノラ」と「クルツ」を巡って描かれたエッセイ(と言ってよいのでしょうか)が14編収められています。ペットロス文学というのか何というのか、不思議な連作です。 【満…

島田荘司『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』

島田荘司 『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』 光文社文庫 島田荘司の『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』を読了しました。初めて読んだのは中学生の頃だったか高校生の頃だったか忘れてしまったのですが、何となく古本屋で手に取って久しぶりの読書となりました。コナン…

村田沙耶香『マウス』

村田沙耶香 『マウス』 講談社文庫 村田沙耶香の『マウス』を読了しました。本書は2008年に刊行された彼女にとって二冊目となる単行本です。現実との向き合い方に苦悩する主人公(や周囲の登場人物)が、奇妙な仕方で世界との折り合いを付けていき、その奇妙…

古川日出男『ゴッドスター』

古川日出男 『ゴッドスター』 新潮文庫 古川日出男の『ゴッドスター』を読了しました。2007年に発表された本書は、既に一定の読者と評価を得ていた著者が、単なる若書きということではなく極めて意図的に創作した作品なのだと推察しますが、作品の特徴を一言…

乗代雄介『十七八より』

乗代雄介 『十七八より』 講談社 乗代雄介の『十七八より』を読了しました。第58回群像新人文学賞受賞作で、著者のデビュー作品です。主人公である女子高生の日常が、著者の読書量に裏打ちされたペダンチックな筆致で描かれています。主人公の言動の裏側に見…

綿矢りさ『蹴りたい背中』

綿矢りさ 『蹴りたい背中』 河出文庫 綿矢りさの『蹴りたい背中』を読了しました。芥川賞最年少受賞ということで当時も大いに話題になった本書ですが、ふと読み返してみたくなって古本屋で文庫本を購入しました。発表当時も感じましたが、文学作品としては至…

滝口悠生『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』

滝口悠生 『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』 新潮文庫 滝口悠生の『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』を読了しました。滝口氏が芥川賞を受賞する前年に発表した作品で、著作としては三冊目にあたるのが本書です。まさに「体験」という他はない…

青木淳悟『匿名芸術家』

青木淳悟 『匿名芸術家』 講談社 青木淳悟の『匿名芸術家』を読了しました。「四十日と四十夜のメルヘン」で新潮新人賞を受賞してデビューした青木氏ですが、本作はその前日譚というか創作秘話のようなものを、いつもの如く奇妙な小説仕立てで描いてみせた作…

村上春樹『カンガルー日和』

村上春樹 『カンガルー日和』 講談社文庫 村上春樹の『カンガルー日和』を読了しました。初めて読んだのは高校生のときだったでしょうか、そのときには「図書館奇譚」や「あしか祭り」のような寓話性を含んだ作品が印象に残りましたが、今読み返してみると「…

池澤夏樹『スティル・ライフ』

池澤夏樹 『スティル・ライフ』 中公文庫 池澤夏樹の『スティル・ライフ』を読了しました。1988年に芥川賞を受賞した作品です。個人文学全集の編者として、また書評家としての池澤氏については知っているのですが、実際のところ小説を読むのは初めてのことで…

島本理生『リトル・バイ・リトル』

島本理生 『リトル・バイ・リトル』 講談社文庫 島本理生の『リトル・バイ・リトル』を読了しました。同時代の日本人作家の作品にももう少し触れておこうという意図をもって手に取った作品のひとつが本書です。家族や周囲の人々との係わり合いを、瑞々しく柔…

星新一『ようこそ地球さん』

星新一 『ようこそ地球さん』 新潮文庫 星新一(1926-1997)の『ようこそ地球さん』を読了しました。本書のあとがきによると、同じく新潮文庫に収められた『ボッコちゃん』が、単行本の『ようこそ地球さん』と『人造美人』からの自選短編といくつかの他の作…

大江健三郎『取り替え子』

大江健三郎 『取り替え子』 講談社文庫 大江健三郎の『取り替え子』を読了しました。もともと自身の私生活を文学的なモチーフを使って昇華しながら作品にしてきた大江氏ですが、本作の背景となっている俳優・映画監督の伊丹十三氏の自殺という出来事が、それ…

乗代雄介『本物の読書家』

乗代雄介 『本物の読書家』 講談社 乗代雄介の『本物の読書家』を読了しました。表題作である「本物の読書家」と「未熟な同感者」の二作が収録されています。縦横無尽に張り巡らされた古今東西の文学作品に関する言及や、ミステリー小説のように練られたプロ…

磯崎憲一郎『電車道』

磯崎憲一郎 『電車道』 新潮文庫 磯崎憲一郎の『電車道』を読了しました。文章も滑らかで引っかかることなく読むことができる物語ですが、約100年間に及ぶ私鉄電車の近代史を背景に、それぞれの人生を生きる幾人かの登場人物たちの姿は、どこか不思議な印象…

古川日出男『ルート350』

古川日出男 『ルート350』 講談社文庫 古川日出男の『ルート350』を読了しました。「物語」と表現しても良いし、本書における表現にならって「レプリカ」と読んでもいいわけですが、そこに立ち上がってくるものの助けを借りながら、あるいはそれに対して抗い…

吉本ばなな『うたかた/サンクチュアリ』

吉本ばなな 『うたかた/サンクチュアリ』 新潮文庫 吉本ばななの『うたかた/サンクチュアリ』を読了しました。吉本さんの本を手にとって読むのはこれが初めての経験になります。繊細な恋愛小説・家族小説なのですが、端的にいうと、もっと若い頃に出会うべ…

『大江健三郎自選短篇』

『大江健三郎自選短篇』 岩波文庫 『大江健三郎自選短篇』を読了しました。ほとんどの作品は再読なのですが、大江氏の処女作から90年代に発表された「後期」の作品まで、すべての収録作品に加筆修訂が施されているとのことで、本書の帯にあるようにまさに氏…

青木淳悟『男一代之改革』

青木淳悟 『男一代之改革』 河出書房新社 青木淳悟の『男一代之改革』を読了しました。本書の表題作は寛政の改革を為した松平定信を主人公とした歴史小説なのですが、青木氏の書く小説なので一筋縄ではいかない、どこかおかしなところを持っています。松平定…

安部公房『砂の女』

安部公房 『砂の女』 新潮文庫 安部公房(1924-1993)の『砂の女』を読了しました。1962年に発表された本書は、海外でも高く評価された作品です。読むのは高校時代以来のことでしょうか。昆虫採集のために砂丘へと出かけた男が、砂の底で女が一人暮らす家に…

島田荘司『盲剣楼奇譚』

島田荘司 『盲剣楼奇譚』 文藝春秋 島田荘司の『盲剣楼奇譚』を読了しました。島田氏の作品群の中にあっては、吉敷竹史を主人公とするシリーズの一作という位置づけになりますが、特にシリーズである必然性は感じられず、単発の作品として著されても良かった…

村上春樹『中国行きのスローボート』

村上春樹 『中国行きのスローボート』 中公文庫 村上春樹の『中国行きのスローボート』を読了しました。高校時代に古本屋で買って読んで以来、再読するのは何年ぶりのことでしょうか。全部で七編の短編が収められた村上春樹氏の初短編集です。 昔読んだとき…

北村薫『太宰治の辞書』

北村薫 『太宰治の辞書』 創元推理文庫 北村薫の『太宰治の辞書』を読了しました。円紫さんと《私》のシリーズ第六作目です。登場人物もすっかり歳を重ねていて、第一作で大学生だった《私》も、本作では出版社に勤めるベテラン編集者になっています。本をこ…

村上龍『海の向こうで戦争が始まる』

村上龍 『海の向こうで戦争が始まる』 講談社文庫 村上龍の『海の向こうで戦争が始まる』を読了しました。本書は村上龍の小説第二作目で、作者自身が本書の「あとがき」で、バーで出会ったリチャード・ブローティガンからの言葉として(この挿話自体がフィク…

筒井康隆『農協月へ行く』

筒井康隆 『農協月へ行く』 角川文庫 筒井康隆の『農協月へ行く』を読了しました。表題作のほか、「日本以外全部沈没」などの作品が収録されています。昔に読んだことがあるような、ないような、記憶が曖昧なのですが、エロ・グロ・風刺・タブーをものともし…

横山秀夫『ノースライト』

横山秀夫 『ノースライト』 新潮社 横山秀夫の『ノースライト』を読了しました。2012年に発表された『64』も久しぶりの作品となりましたが、今年発表された本作もそれから実に9年ぶりの作品となります。もっとも本作は2004年から2006年に一度雑誌連載されて…

大江健三郎『あいまいな日本の私』

大江健三郎 『あいまいな日本の私』 岩波新書 大江健三郎の『あいまいな日本の私』を読了しました。本書には1994年のノーベル文学賞受賞時の記念講演をはじめ、新聞社主催の医療フォーラム、コンサートホール、井伏鱒二さんを偲ぶ会など、全部で9編の講演が…

村上春樹・安西水丸『象工場のハッピーエンド』

村上春樹・安西水丸 『象工場のハッピーエンド』 新潮文庫 村上春樹=文・安西水丸=画の『象工場のハッピーエンド』を読了しました。高校時代に古本屋で買って読んだ記憶があるのですが、何となく再読したくなって書店で新品を購入して手に取ることになりま…

島田荘司『鳥居の密室 世界にただひとりのサンタクロース』

島田荘司 『鳥居の密室 世界にただひとりのサンタクロース』 新潮社 島田荘司の『鳥居の密室 世界にただひとりのサンタクロース』を読了しました。島田さんの小説作品はほとんど読んでいて、その文体も含めて好きな作家ではあるのですが、近年は会話の流れの…