文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ナディン・ゴーディマ『ジャンプ 他十一篇』

ナディン・ゴーディマ 柳沢由実子(訳)

『ジャンプ 他十一篇』 岩波文庫

 

ナディン・ゴーディマさんは南アフリカの女性作家で、1991年にノーベル文学賞を受賞しています。同じく南アフリカの作家でノーベル文学賞受賞者であるJ・M・クッツェーさんの作品は読んだことがあったのですが、ゴーディマさんの作品はこれが初読です。

 

12篇の短編小説が収録されています。冒頭の作品「隠れ家」から、ぐいぐいと描写していく硬質な文体にすっかり引き込まれてしまった。そこで描かれたものが、描かれなかったものの姿を浮かび上がらせる。短編小説っていいなあと感じさせてくれます。

 

他に印象に残った作品は「究極のサファリ」。作品タイトルであり、作品冒頭で引用される新聞の旅行案内でも謳われる「究極のサファリ」とは、直接的には南アフリカモザンビークの間に位置する「クルーガーパーク(クルーガー国立公園)」のことを指しています。クルーガーパークは南アフリカで最大の野生動物保護区らしい。本書を読み終わった後に「クルーガー国立公園」とGoogle検索してみると、ある旅行系のウェブサイトでは実際に「究極のサファリ」という表現もなされていました。

 

短い作品の中で、戦争から、盗賊から、逃れるようにモザンビークから南アフリカへと移動する家族の姿が描かれます。住み慣れた土地を追われ、食べ物もなく移動する人々の前に立ち現れるのがフェンスに囲われたクルーガーパーク、「白人たちが動物を見にくるところ」。そのフェンスに触ると焼かれて殺されてしまうという。語り手である少女(たぶん)の言葉が印象に残る。

でもとにかく、あたしたちの国は人間の国で、動物の国じゃない。

困難な現実を描く筆致のなかで、悲壮感ではなく、生きることへの確かな手ごたえを感じることができるのは、小説のパワーだなあと思います。

 

【満足度】★★★★☆