文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ビアス『ビアス短編集』

ビアス 大津栄一郎編訳

ビアス短編集』 岩波文庫

 

悪魔の辞典』で有名なアメリカの作家、アンブローズ・ビアス。皮肉の効いた用語定義を裏付けているのは巧まざる人間観察のわざだと思うのですが、作家というよりもジャーナリストとして活躍したというプロフィールを聞いて納得。

 

本書の解説によると、ビアスの短編小説全集では全作品が「The World of Horror(恐怖の世界)」、「The World of War(戦争の世界)」、「The World of Tall Tales(信じられない世界の話)」の3つに分類されており、本短編集に収録された16の短編もこの分類に従っているという。

 

ビアスの短編でとみに有名なのは、「The World of Horror(恐怖の世界)」に分類された「月明りの道」と、「The World of War(戦争の世界)」に分類された「アウル・クリーク鉄橋での出来事」だと思います。前者は芥川龍之介の「藪の中」に影響を与えたといわれているようです。

 

しかし、私が今回本書をを読んでぶっ飛んでしまったのは「The World of Tall Tales(信じられない世界の話)」に分類された作品の数々でした。大量の猫を積んで航海する船のドタバタ喜劇を描いた「猫の船荷」。また、犬から油を製造する父と歓迎されない嬰児を処置する仕事をする母という、とんでもない家庭の中で起こる悲喜劇を描いた「犬油」。何ともめちゃくちゃなストーリーをさらりとした筆致で描いてみせるビアスの闇は深そうです。

 

【満足度】★★★☆☆