文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

カルロス・フエンテス『テラ・ノストラ』

カルロス・フエンテス 本田誠二訳

『テラ・ノストラ』 水声社

 

メキシコの作家であるカルロス・フエンテスが1975年に発表した『テラ・ノストラ』は何しろ長大な作品で、読み終えた感想として、まずはどうしてもその長さについて語りたい気分になります。二段組で1,000ページ以上という分量のため、私は年末年始頃から読み始めて、途中で他の本に浮気しながら、約二か月ほどかけてようやく読み終えることができたのですが、訳者のあとがきによると、作者のフエンテス自身ですら本書を最後まで読み終えてくれる読者を想定していなかったというくらいに、重厚かつ複雑な作品になっています。

 

1999年7月のパリの早朝を詩的に描写する冒頭から、超自然的な出来事が自然的日常の風景と地続きに提示され、めまいのするような感覚にとらわれてしまうのですが、それはまだ序の口。物語はフェリペ2世(作中ではセニョールと呼ばれる)を軸とする16世紀のスペインへと舞台転換して、生や死、暴力、性、狂気、聖俗入り乱れる挿話が次々に展開されていきます。

 

「テラ・ノストラ(われらの大地)」というタイトルからして、フエンテスの母国であるメキシコのルーツを描く作品であることを想像させ、そして事実その通りではあるわけですが、「テラ・ノストラ」とはいわゆる「新大陸」のことを指すわけではなく、作中では「ヒスパニア」のことを指すものとして語られています。フエンテスの描こうとした「われら」のルーツとは一体どのようなものなのか、それはこの長大な作品を読んで感じるしかないものだと思いますが、それはやはり小説のかたちでしか描かれ得なかったものであり、単純な図式には還元することができないものなのでしょう。読書体験というかたちでしか得られないものもあるのではないか、と。

 

【満足度】★★★★☆