『停電の夜に』 新潮文庫
学生時代だったか、新潮クレストブックで出た頃に読んで、今回何年ぶりかに文庫で再読となりました。表題作のラストで主人公の男性が妻に打ち明ける話の展開に、あっと言わされてしまったことをよく覚えています。
今回の再読で印象に残ったのは「病気の通訳」という作品。原語では「停電の夜に」ではなく、こちらの作品が表題作になっているようです。「病気の通訳」の主人公は、観光ガイドを行うかたわら、多くの公用語が存在するインドにおいて医者と患者との間の通訳を行っている。そんな主人公がアメリカから来た家族の案内をしているときに、ふとしたきっかけから奥さんと心を通わせたと感じる。
彼はその予感を「国と国との橋渡しという通訳になる」と心の中で表現するのですが、まもなくそれはまったくの幻想であったという事実を突き付けられます。
この瞬間、自分はわざわざ馬鹿にされるほどの存在ですらないと知らされたのだ。
切れ味の鋭い一撃で、心を奪われる短編集。今度は長編作品も読んでみたいですね。
【満足度】★★★★☆