文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

クセノポン『アナバシス』

クセノポン 松平千秋訳

『アナバシス―敵中横断6000キロ―』 岩波文庫

 

おもしろいとは聞いていたのですが、本書『アナバシス』、予想以上におもしろく読むことができました。小説というよりはむしろ迫真のドキュメンタリーといった方が正確なのでしょうか。2000年の時代を超えて人の心を引き付けるものになっているのだから、本当に大したものだと思います。

 

ペルシアのキュロス王子は、長兄の王位を簒奪すべく、ギリシア人傭兵に目的を告げぬままペルシアに向かいます。しかし、あいにくキュロスは戦死してしまい、取り残されたギリシア人傭兵は故郷を目指して必死の脱出を試みます。戦闘や行軍のリアルな描写が後世の文学作品に大きな影響を与えたことは想像に難くありません。

 

作者であり登場人物でもある(?)クセノポンは、脱出行のなかにあって中心的な役割を果たす存在であるとはいえ、全体として物語は群像劇として描かれています。それぞれの思惑で行動する王や将軍、そそて傭兵たちの姿は現代に生きる私たちの目から見ても極めてリアルです。また、行軍のなかでクセノポンが提示する思考や手法は、兵法としてもおもしろく読むことができました。

 

わけあって隣県に行って帰って来る間の電車のなかで、ほとんどの部分を読んだのですが、図らずも「移動」のなかでの読書体験となりました。

 

【満足度】★★★★☆