文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

アゴタ・クリストフ『ふたりの証拠』

アゴタ・クリストフ 堀茂樹

『ふたりの証拠』 ハヤカワ文庫

 

アゴタ・クリストフ(1935-2011)はハンガリー出身でスイスに移り住んだ後、フランス語で小説を書いたそうです。そしてその第一作目『悪童日記』(フランス語の原題は“Le garnd cahier”で『大きなノート』)で大きな注目を集めます。本作『ふたりの証拠』は、その『悪童日記』の続編にあたります。

 

前作『悪童日記』を読んだときはその切り詰められた文体と描写に衝撃を受けたのですが、本作でもそのシャープな文体は健在です。もともと母語ではないフランス語で執筆したことからこのような文体になったのか、あるいは意図してのものなのかそれは解らないのですが、読者を物語の中に引きずり込むような力強い文体です。

 

悪童日記』が過酷な現実のなかで生き抜くための「資格」(良い表現が見つかりませんが)を身につけるための観察と記録の物語であったとすれば、本作は多様な相貌をもつ現実世界のなかでその資格がどこまで通用するのかを描いた作品であるように感じられました。本作の原題“La preuve”は、あまりネタバレになるので書くことができない「ふたり」の「証拠」であると同時に、前作よりも開かれた世界においても変わらず貫かれた彼らの流儀の成功と挫折の「証明」でもあるということなのでしょう。

 

前作読了時にブログを書いていたら、おそらく五つ星を付けていたと思うのですが、本作は続編として見事だという感想ながらも前作ほどのインパクトはなかったということで四つ星くらいでしょうか。とはいえ第三作目『第三の嘘』も期待して読みたいですね。

 

【満足度】★★★★☆