文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ジェームズ・M・バリー『ピーター・パンとウェンディ』

ジェームズ・M・バリー 大久保寛

『ピーター・パンとウェンディ』 新潮文庫

 

ジェームズ・M・バリー(1860-1937)の『ピーター・パンとウェンディ』を『ピーター・パンの冒険』に続いて新潮文庫の新訳で読了しました。『ピーター・パンの冒険』はケンジントン公園を舞台にしたピーター・パンの誕生秘話でしたが、本作では少女ウェンディや妖精ティンカー・ベル、また海賊フック船長が登場して、広く世に知られたピーター・パンの物語が展開されます。

 

しかしここでも一筋縄ではいかないというか、ところどころに屈折した部分が見られる点は前作と同じです。ウェンディーに嫉妬したティンカー・ベルが、ネバーランドの子どもたちを騙してウェンディを弓で射させる場面は、児童文学としてはいささか問題になりそうです。フック船長の正体が上流階級の子弟が通う有名パブリック・スクールの生徒(知らなかった…)だったり、ウェンディの家のニューファンドランド犬・ナナが子守りのプロとして擬人化されているのも、何となくその場の思い付きを寄せ集めた構成のようにも見えてしまいます。

 

とはいえこうした雑味の部分こそを面白く読むことができたというのは事実で、児童文学としては先日読んだ『オズの魔法使い』の方がよほど優れていると感じるわけですが、ピーター・パンの小説にはそれとは異なる不思議な魅力があります。ずっと大人になることのないピーター・パンと、ウェンディの娘あるいは孫、そしてその子孫である娘たちと永遠に繰り広げられるネバーランドの冒険を想像したときに、私たちがそこにどんな風景を見ているのか興味深いところではあります。

 

【満足度】★★★☆☆