文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

トルストイ『復活』

トルストイ 藤沼貴訳

『復活』 岩波文庫

 

トルストイ(1828-1910)が晩年に記した長編『復活』を読了しました。『戦争と平和』を読んでトルストイのすごさに開眼させられ、『アンナ・カレーニナ』を読んでその構成力に驚かされ、この『復活』についても期待して読書を開始しました。

 

晩年のトルストイの「回心」を体現したかのような小説というのが月並みな第一印象です。主人公のネフリュードフは陪審員として出席した裁判で、事件の被告として現れたかつて自分が関係を持った末に自分勝手な都合で別れを告げたマースロワ(カチューシャ)に出会います。そして陪審員の手違いともいうべき措置のせいで、マースロワには有罪判決が下されます。この出来事をきっかけにして、ネフリュードフはマースロワを助けようと奔走するとともに、自らの人生を顧みることを始めます。

 

冒頭の裁判の場面などは実にリアルで情景の浮かぶ描写で、さすが文豪トルストイという感じがするのですが、正直なところ作中でのネフリュードフの「転回」にはいささかついていけないところもあります。ネフリュードフはマースロワの救済(というよりも自らの懺悔)に骨を折ると同時に、地主が土地を所有することの不合理を感じて農民に土地を分配しようとするのですが、その描写はなかなかリアリティがあって面白く読むことはできたのですが、それでもこうしたストーリーラインは、トルストイが自らの信条を表現するためにとってつけたような筋立ての結果にしか見えない部分もありました。

 

本書の解説で訳者の藤沼貴さんは、本書のテーマが(日本人には本来なじみの薄い概念である)「復活」ということであり、その考察の重要性を説いています。この本を理解するにはまだまだ私には何かが足りないということなのだと思います。

 

【満足度】★★★☆☆