文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ペーター・ハントケ『左ききの女』

ペーター・ハントケ 池田香代子

左ききの女』 同学社

 

ペーター・ハントケ(1942-)の『左ききの女』を読了しました。「新しいドイツの文学」シリーズと銘打たれて1989年に翻訳の初版が発行されています。ペーター・ハントケは1966年にデビューした後、1970年代から1980年代のドイツ(出身はオーストリアのようですが)を代表する作家として活躍しています。2009年には「フランツ・カフカ賞」も受賞しており、現在においては大御所作家という位置づけなのでしょうか。

 

ペーター・ハントケは1966年に発表した『観客罵倒』という戯曲で一躍名を知られるようになったらしいのですが、その筋立ては「四人の出演者が劇の始めから終わりまでひたすら観客を罵倒し続ける」(Wikipedia「ペーター・ハントケ」より)というものらしく、それはそれで見てみたいものだと感じます。またペーター・ハントケは、私の好きな映画『パリ、テキサス』の監督であるヴィム・ヴェンダースと組んで、映画製作にも携わっているようです。

 

本書『左ききの女』は小説ですが、どこか演劇的・映画的な部分も感じられる作品です。本書では、主人公である「女」(マリアンヌ)とその夫であるブルーノ、二人の間の子ども(シュテファン)という一つの家族を核として物語が進みます。本書のテーマをいたって月並みに表現すると、現代人の「孤独」ということになるのですが、主人公の女の孤独の輪郭を明らかにするように、夫婦の友人であるフランツィスカ、女のかつての雇い主である社長とその運転手、俳優、ブティック店員などの人物が次々に物語に登場してきます。そして、物語の終盤ではこれらの登場人物が一堂に会することになるのですが、その場面が何とも演劇的・映画的で、ペーター・ハントケが自ら監督と脚本を務めたという映画版「左ききの女」でこのシーンがどう描かれたのか、ぜひ見てみたいところではあります。

 

それほど難解な部分はなく、中編というよりは短編に近い分量で、気軽に読むことができます。ペーター・ハントケの入門編としては良かったのではないかと思います。次は『反復』を読んでみたいですね。

 

【満足度】★★★★☆