文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ブライアン・エヴンソン『遁走状態』

ブライアン・エヴンソン 柴田元幸

『遁走状態』 新潮社

 

ブライアン・エヴンソン(1966-)の『遁走状態』を読了しました。340ページというボリュームの本に19の短編が収録されています。短い作品が多いので気が向いたときに少しずつ読み進めるという仕方で読書を進めていきました。各編の扉に添えられたザック・サリーというイラストレーターの絵が、どことなく不安感を覚えさせる効果を発揮しています。また「怖れ」という作品では、ザック・サリー氏の絵がテキストと同等の役割を果たしています。

 

柴田元幸さんは訳者あとがきのなかで、ブライアン・エヴンソンがテーマとして取り上げる「私」の不安定さに触れて、ゴシック小説のテーマとの類縁性なども引き合いに出しながら、「文学的に一番近いのはやはりポーではないかと思う」と述べています。エドガー・アラン・ポーはもう一度読み直してみたい作家なのですが、個人的にこれまでの読書体験では(多くの作家がリスペクトを示しているほどには)感動を覚えることはありませんでした。ブライアン・エヴンソンの本書を読んでいるときも「おっ」と思って引き込まれそうになったと思ったら、そのうち少しずつ興味が薄れてしまったり、読み進めて読み終わりはするのですが、何となく焦点の定まらない読書体験だったように思います。

 

姉妹の奇妙な記憶を巡る物語である「年下」や、パントマイム師とセックスをしたことで不眠に陥った女性の悲喜劇を描く「見えない箱」など、おもしろく読むことができた作品もたくさんあるのですが、全体としては、それほどのめり込むことができなかったというのが正直なところ。これは完全に好みの問題であるような気もします。同じく新潮クレスト・ブックスから出ているブライアン・エヴンソンの『ウインドアイ』も読んでみたいとは思っているのですが。

 

【満足度】★★★☆☆