文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

アンドレ・ブルトン『シュルレアリスム宣言・溶ける魚』

アンドレ・ブルトン 巌谷國士

シュルレアリスム宣言・溶ける魚』 岩波文庫

 

アンドレ・ブルトン(1896-1966)の『シュルレアリスム宣言・溶ける魚』を読了しました。何となく読んでいた気になっていながら、今まできちんと読んだことはなかった作品でした。厳密には「作品」と呼べるのは本書後半に収録された「溶ける魚」であり、「シュルレアリスム宣言」はその作品に付せられた長い序文という性格のテキストのようです。

 

「溶ける魚」は「自動記述」という方法論によって書かれたとされています。「自動記述」とは、フロイト的な無意識の領野から到来するイメージを詩作の素材とするために、「文学的にどんな結果が生じうるかなどはみごとに無視して、紙に字を書きまくること」だそうです。シュルレアリスムとは「心の純粋な自動現象」であるとされ、また理性による統制を完全に免れたものであることはもちろんのこと、「美学上ないし道徳上のどんな気づかいからも離れた思考の書きとり」であるとされます。

 

そうして書かれたはずの「溶ける魚」が、訳者の解説によれば、元のテキストから訂正や削除が施された箇所も多いとされていると聞くと、何だかなぁと思ってしまうわけですが、さらにいえば「溶ける魚」に収められたいくつかの断章それ自体も、不思議な感覚を覚える部分もありこそすれ、果たして詩的なイマージュに満ち溢れたものかと問われると、素直に肯ずることができない自分を見出します。単純にいうと、それほど面白いとは感じられなかったわけですが、これは好みの問題もあるので。しかし、20世紀における詩作の方法論を模索したものであるシュルレアリスムのアプローチは、それ自体で一定の価値を持つものであるとも思います。

 

次はシュルレアリストとの交流を通じて、自動記述という方法論に頼らずとも、自らのルーツである南米の現実世界と地続きのものとして存在する「驚異的な現実」を見出すことで、「マジックリアリズム」を創出したとされるカルペンティエルを読んでみたいのですが、忙しくてその時間が取れるかどうか…。

 

【満足度】★★★☆☆