文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ウィリアム・サローヤン『僕の名はアラム』

ウィリアム・サローヤン 柴田元幸

『僕の名はアラム』 新潮文庫

 

ウィリアム・サローヤン(1908-1981)の『僕の名はアラム』を読了しました。サローヤンといえば、高校時代くらいに古本屋で『ママ・アイラブユー』、『パパ・ユーアークレイジー』という印象に残るタイトルの本を見かけて、その記憶だけが鮮明に残っているのですが、結局その本を手に取ることはなかったので今回が初読ということになりました。本作『僕の名はアラム』は村上柴田翻訳堂の第二弾として出版されています。

 

アルメニア系のアメリカ人であるサローヤンが、自らが育ったカリフォルニア州フレズノを舞台にして、主人公アラム・ガログラニアンに理想の少年時代を仮託して語ったかのような連作短編集とでもいうべき作品です。少年たちの描き方が素晴らしく、ユーモラスで楽しい文体は小説のすばらしさを教えてくれます。

 

そして描き方がうまいのは少年たちの姿だけではなく、その少年の目を通して描かれる大人の姿もまた、とてもうまいのです。本作に収録されている「三人の泳ぎ手」では、物語の前半で春の冷たい川で泳ぐ三人の少年たちの見栄や駆け引きなどが瑞々しく描かれた後、物語の後半ではそれらをすべて鷹揚に昇華するような存在である、よろず屋の店主が登場します。作者が描く作品世界の懐の深さを感じさせられるというか、単純に「いいなぁ」と思わされる作品です。

 

今ではなかなか手に入らない本も多いようですが、また他の作品も読んでみたいと思います。

 

【満足度】★★★★☆