トマス・ハーディ 河野一郎訳
『呪われた腕 ハーディ傑作選』 新潮文庫
トマス・ハーディ(1840-1928)の『呪われた腕 ハーディ傑作選』を読了しました。村上柴田翻訳堂の第三弾として、1968年の版が復刊されたもののようです。表題作の「呪われた腕」をはじめとして、合計で8編の短編が収録されています。長編『テス』の作者として名前は知っていたハーディですが、その作品を手に取るのは初めてのことでした。
運命に翻弄される登場人物たちの一生を短編一作品のなかで描き切ってしまうのはさすがというか何というか、イギリスの田舎の風景描写と相まって、読ませられる作品が並んでいます。その作風からはドイツのシュティフターが想起させられるのですが、自然への畏敬と信仰の念を持って生きるシュティフター作品の登場人物と比べて、ハーディの作品に登場する人物は、同じく平凡な日常の中に生きながら様々な観念に囚われてしまっているようです。
それらは観念であるがゆえに、決して登場人物に現実的な満足をもたらすことはないのですが、それでもそうした観念に呪縛されてしまうところに、ハーディが描く人間の業というものを感じさせられます。「良心ゆえに」のミルボーン氏の身勝手な贖罪意識が行きつく先にあるのは、あらかじめ用意されていた不幸のようです。
もう少し読書の時間を取りたいものですが、なかなかそれも叶わず、日々が過ぎていきます。
【満足度】★★★☆☆