文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ファン・ジョンウン『野蛮なアリスさん』

ファン・ジョンウン 斎藤真理子訳

『野蛮なアリスさん』 河出書房新社

 

ファン・ジョンウン(1976-)の『野蛮なアリスさん』を読了しました。韓国文学を読むのは、ほとんど初めてのことかもしれません。というよりも、日本を除く東アジアの文学にほとんど触れて来なかったということにあらためて気付かされます。比較的短い作品で、忙しい日々の中でも一気に読み切ることができました。

 

大都市の少し外れにある町「コモリ」で生きる兄弟の物語。文中に頻繁に登場する「クサレオメコ」という言葉が持つ負の喚起力とともに、「再開発」に踊り踊らされる人々の姿が印象に残ります。本書でも描かれた韓国における再開発の話を周囲の人(孫がいる年齢の人)にしたところ、日本でもかつてバブルの時代に同じようなことが起きていたとのこと。

 

「かていないぼうりょく」のことを訴えるために役所の「ふくしか」に行くアリシアの行為がまったくの徒労に終わってしまうエピソードは、社会の空回りの仕方をよく表していると思うのですが、アリシアの兄が父親に向かって延々と呪詛の言葉を吐く場面も、この社会を取り巻く閉塞感を思い知らせてくれます。どこにも行けなかったものの存在を忘れてひたすら先に進もうとする時代の足に、読者である私たちのところにも、幽霊のように追いすがります。

 

同時代にこそ読まれるべき作品があるのだと、あらためて感じます。そうした作品を十分にフォローできないことに忸怩たる思いはあるのですが、有限の時間の中で読書を続けていきたいと思います。

 

【満足度】★★★☆☆