文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

アンソニー・ドーア『メモリー・ウォール』

アンソニー・ドーア 岩本正恵

『メモリー・ウォール』 新潮社

 

アンソニー・ドーア(1973-)の『メモリー・ウォール』を読了しました。アンソニー・ドーアの作品を読むのは『シェル・コレクター』に次いで二冊目のこと。現代アメリカの若手(?)注目作家のひとりという印象のドーアですが、長編『すべての見えない光』も話題になっていましたし(私は未読ですが)、本書も2012年の本屋大賞で翻訳小説部門の第三位ということで、日本でもしっかり受容されているようです。

 

本書は表題作である「メモリー・ウォール」をはじめとして6つの作品が収録された短編集です。失われていく記憶を外部装置に保存することができる世界というSFめいた設定で描かれる表題作では、夫をなくした74歳の老女アルマの記憶をめぐって、ミステリー的な展開でストーリーが進んでいきます。短い断章を積み重ねていくという手法も成功しているように見受けられます。記憶が外在化することで生じたビジネスは、そこで取り扱われているものが記憶であるからこそ、それを「読み取った」人の中に内面化されて、当初の目論見から外れていくことになります。

 

決して揶揄するつもりはないのですが本屋大賞に選ばれそうな作風というか、アンソニー・ドーアの作品が持つ調和的な部分は、魅力であると同時に物足りなさにもつながっているような気がします。両親を失ってリトアニアに移住する少女の姿を描く「ネムナス川」など心に残る作品も多く、さらにプラスアルファを望んでしまうというのは読書の姿勢としてどうかとは思うのですが。

 

少し肌寒くなってきて読書の季節という感じになってきました。平日は忙しい日々が続いていますが、休みの日くらいはゆっくりと読書の時間を取りたいものです。

 

【満足度】★★★☆☆