文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

『ベスト・ストーリーズⅠ ぴょんぴょんウサギ玉』

若島正

『ベスト・ストーリーズⅠ ぴょんぴょんウサギ玉』 早川書房

 

若島正編『ベスト・ストーリーズⅠ ぴょんぴょんウサギ玉』を読了しました。アメリカの雑誌『ニューヨーカー』に掲載された小説や記事を未訳の作品を中心にまとめたという『ベスト・ストーリーズ』は全三巻の構成で、その第一巻にあたるのが本書には創刊から1959年までの作品が収録されています。もともと1969年に同じ早川書房から出版された『ニューヨーカー短編集』(全三巻)をお手本にしたという本書ですが、なかなか読みたくても読めない作家の作品に触れられるという点でも、こうしたアンソロジーはもっと増えてほしいものだと感じます。

 

全部で18編の作品が収録された第一巻の中で、特に私の印象に残った作品を備忘録として列挙しておきます。

  1. ヘミングウェイの横顔―『さあ、皆さんのご意見はいかがですか?』」(リリアン・ロス 木原善彦訳)
  2. 「この国の六フィート」(ナディン・ゴーディマー 中村和恵訳)
  3. 「シェイディ・ヒルのこそこそ泥棒」(ジョン・チーヴァー 森慎一郎訳)

1は訳者の解説によると「ニュー・ジャーナリズム」と呼ばれる小説的なドキュメンタリーの手法で書かれたヘミングウェイの日常をレポートする作品なのですが、単純にその暴露的な(大げさなものではないですが)筆致を楽しく読むことができました。2はアパルトヘイト政権下のアフリカ社会の現状を厳しくも独特のユーモアを交えて描いた作品で本書の「ベスト」と言えるものでした。ラストの一行は“これぞ小説”というもので私はとても好きです。3はそれなりに恵まれた中流の生活から少しずつ転落していく男の話ですが、その転落の仕方までも中流であるがゆえにおかしさと哀しさと少しばかりゾッとさせられる作品でした。

 

通勤の電車の中でほんの少しずつ読み進めることが習いになりつつあります。第二巻と第三巻もそのようにして読み進めていくことになりそうです。

 

【満足度】★★★★☆