文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ル・クレジオ『心は燃える』

ル・クレジオ 中地義和・鈴木雅生訳

『心は燃える』 作品社

 

ル・クレジオ(1940-)の『心は燃える』を読了しました。本書はフランスのノーベル賞作家であるル・クレジオの中短編集で、2000年にフランスで刊行され、2017年に日本語で全訳が出版されています。表題作である「心は燃える」を含めて7篇の作品が収録されています。私がル・クレジオの作品を読むのはこれが初めてのこと。

 

印象に残ったのは本書の末尾に置かれた「宝物殿」でしょうか。世界遺産にも指定されているヨルダンの遺跡「ペトラ」を舞台にして、そこを訪れる探検家の視点と現地に住むベドウィンの少年の視点のそれぞれから、未知なるものへの超越的誘惑が描かれています。この作品はもともと、このペトラの遺跡をめぐって世界各地の12人の作家が書いたテクストを集めた『ペトラ―岩々の物語』で初めて発表された作品とのこと。いわば主題ありきで書かれた作品ですが、それゆえにル・クレジオという作家の特徴を自分の中で形成するのに都合が良い気がします。彼のノーベル賞の受賞理由として挙げられた「新たな旅立ち、詩的な冒険、官能的悦楽の書き手となって、支配的な文明を超越した人間性とその裏側を探究した」という側面も、本作にはよく現れているような気がします。

 

本作を読んだだけでル・クレジオ作品のことをよく解った気になるのはいささか早計だと思いますので、作家自身に対する評価を行うことは控えておこうと思います。初期作品である『大洪水』やインディオの生活について語った『悪魔祓い』など、文庫で手軽に入手できる作品が未読のまま本棚に積まれているので、それらを読んだときにもう一度感想を述べることにします。

 

【満足度】★★★★☆