文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ジュノ・ディアス『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』

ジュノ・ディアス 都甲幸治・久保尚美訳

『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』 新潮社

 

ジュノ・ディアス(1968-)の『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』を読了しました。作者のジュノ・ディアスはドミニカ共和国に生まれ、6歳のときに家族でアメリカに渡った後、父親の失踪や兄の病気など困窮した家庭で育ちながらも様々な仕事をこなすかたわら大学で文学と創作について学び、『ニューヨーカー』などの雑誌で短編を発表、それらが高い評価を受け、満を持して発表した長編である本書は、ピュリッツァー賞と全米批評家協会賞をダブル受賞し、ベストセラーになったとのこと。

 

ファンタジーやSF、ロックと日本アニメをこよなく愛する“オタク”であるオスカーは、いわゆる非モテの主人公で、女の子に多大な興味を持ちながらもうまくアプローチできません。ドミニカ人として生まれながら一度も女の子とセックスをすることなく死ぬのではないかという恐れとも諦念ともつかない思いを抱きつつ成長するオスカーの少年・青年時代を描きながら、一方で彼の母親や祖父をはじめとする一族の歴史が紐解かれるなかで、オスカーの生まれ故郷であるドミニカに君臨した独裁者トルヒーヨの治世が語られていきます。

 

この作品について語られた言説の多くを事前に目にしてしまっていたせいで、個人的には本書を純粋に楽しめなかったのではないかという懸念もあるのですが、それでも本書の新しさは明確に感じられました。オスカーの姉ロラが物語の最終版で語る「私たちは一千万人のトルヒーヨなのよ」という言葉に込められた怒りと哀切、そしてオスカーの一族にかけられているというカリブの呪い「フク」の正体に思いを馳せることだけでも、本書を読んだ価値はあるというものです。

 

【満足度】★★★★☆