文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

『ベストストーリーズⅢ カボチャ頭』

若島正

『ベストストーリーズⅢ カボチャ頭』 早川書房

 

雑誌『ニューヨーカー』に掲載された短編小説をはじめとする作品について未訳のものを中心にアンソロジーとしてまとめた『ベストストーリーズ』の第三巻を読了しました。本書に収録された作品が発表されたのは1990年代から2010年代まで。現在も最前線で活躍する作家が多く登場しています。以前に作品を読んだことがあるのは、アリス・マンロー、ミュリエル・スパーク、スティーブン・ミルハウザージョン・アップダイクジュリアン・バーンズ、そしてスティーブン・キングもラインナップに入っているのが面白いところ。

 

本書の中では、なんといってもアリス・マンローの作品「流されて」に瞠目させられました。これまでに読んだことのある短編小説の中でも、間違いなく五本の指には入れたくなる名作です。訳者のまえがきによると、あるインタビューでマンローは本作について「起こりえたこと」と「実際に起こったこと」という異なる現実を書こうとしたと語っているようです。(インタビューの言をそのまま信じるのであれば)可能世界で繰り広げられる他人や自己に対する希望、幻滅、すれ違いや運命の分岐。それらすべての辻褄をどうにかすれば合わせられそうで、しかしやはりどこかチグハグな部分が出てきてしまう。何とも不思議な読み心地の作品で、人生を丸ごと描くことを目指す短編小説でこの作品以上のものに出会うことは、ほとんど稀なのではないかと思わされます。

 

その他には、ジョイス・キャロル・オーツの「カボチャ頭」の不気味さが備える“説得力”も印象に残っていて、他の作品も読んでみたいと思わされました。これでアンソロジー『ベストストーリーズ』も三巻すべてを読み終わったわけですが、たくさんの出会いがあり、良い読書体験となりました。

 

【満足度】★★★★★