文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ポール・オースター『インヴィジブル』

ポール・オースター 柴田元幸

『インヴィジブル』 新潮社

 

ポール・オースター(1947-)の『インヴィジブル』を読了しました。ポール・オースターの生年をあらためて確認してびっくり、もう70歳を超えているのですね…。彼の作品はそのほとんどを読んでいるのですが、『ミスター・ヴァーティゴ』以降はちょっと物足りなさの残る読書体験が続いています。彼が新しい作品のかたちを模索しているということなのだと理解していますが、何となく恒例行事のように読書をしている気分で、昔のような興奮は味わえなくなっています。

 

本書『インヴィジブル』はどうでしょうか。時は1967年、コロンビア大学二年生のアダム・ウォーカーがデ・ボルンという謎めいた男と出会う一人称の物語「春」から始まって、二人称の「夏」、三人称の「秋」という枠物語のかたちを取りながら、虚構とも現実ともつかないひとりの男性の人生が語られていきます。全体的におもしろく読むことができたというのが率直な感想です。

 

本文中でかなり意図的に使われているらしい“invisible”という言葉ですが、どのように理解すべきなのでしょうか。「不可視」であるということは、取りも直さず、目には見えなくてもいつもそこに存在している何かを示唆しているようにも思われます。突然の暴力にせよ、禁断の性愛にせよ、それは不可視なだけでいつでもそこに存在している。本書に入れこまれた1967年の物語はその何かを可視化するための装置としてそこにあるかのようです。

 

それでもポール・オースターならもっと書けるはずではという思いもあって、未訳の『サンセット・パーク』やブッカー賞候補ともなった『4321』の翻訳を楽しみに待ちたいと多みます。

 

【満足度】★★★★☆