文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ジョン・アップダイク『走れウサギ』

ジョン・アップダイク 宮本陽吉訳

『走れウサギ』 白水社

 

ジョン・アップダイク(1932-2009)の『走れウサギ』を読了しました。本書がアメリカで出版されたのは1960年のことで、そのときアップダイクは27歳か28歳、本書の主人公である「ウサギ」ことハリーは作中で26歳であると語られています。まさに本書を執筆しているときのアップダイクとウサギは、少なくとも年齢的に、ほぼぴったりと重なっていたわけです。本書には、草原に佇み、ポケットに手を突っ込んだ姿勢で空の方を見上げるアップダイクの写真が掲載されていますが、そんなこともあって、本書を読んでいる最中に、ウサギはアップダイクの姿に変換されて、私の脳内で各シーンに登場していたのでした。

 

冒頭、第二子を妊娠した妻ジャニスから、子どもを迎えに行くついでに車を持って帰って来るように頼まれたウサギは、そのままその車に乗って家出をしてしまいます。そして家出した先では娼婦めいた生活をしているルースのところに転がり込むのですが、このあてのない脱走劇が特にこれといった盛り上がりを見せることはありません。ジャニスとの結婚生活を元に戻そうと説得に現れた牧師エクルズとウサギはのんきにゴルフをしたり、第二子が産まれたと聞くやいなやルースを放って病院の妻のもとに駆け付けたり、ウサギの無軌道な脱走生活はだらだらと続きます。終盤で迎えた悲劇にも、ウサギのふわふわとした態度は変わることはありません。

 

なぜあなたは自分が何をやりたいか、はっきり決めないの?

 

終盤でルースに問い詰められたウサギは、矢継ぎ早に投げかけられるほとんどの問いかけに「わからない」と答えます。彼の抱える喪失感、そして「罪悪感と責任感」を抱えて行き場がなくなってしまったという逼塞感は、私にとってもまったく馴染みがないものというわけではないのですが、若くして結婚した彼(ウサギ≒アップダイク)と私とではそうしたものに対する感じ方も違うのだろうと思います。

 

ウサギ四部作を読み切ることができるのは果たしていつになるか解りませんが、これからもウサギことハリー・アングストロームの人生を辿っていきたいと思います。

 

【満足度】★★★★☆