文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

冨田恭彦『カント哲学の奇妙な歪み』

冨田恭彦

『カント哲学の奇妙な歪み』 岩波現代全書

 

冨田恭彦の『カント哲学の奇妙な歪み』を読了しました。積み残していた『純粋理性批判』の再読に向けて、カント哲学の復習をしておこうと思って手に取ったのが本書です。ロック研究者として知られる冨田氏ですが、近世哲学を解りやすく語らせると氏の右に出る方は今の日本の研究者にはいないのではないでしょうか。本書はタイトルから推察されるようにカントを批判的に読解することを主眼としていますが、単純にカント哲学の解説書を読むよりも理解に資するものは多いのではないかと期待を覚えます。

 

本書は哲学の啓蒙書というよりは専門の研究書で、カントの哲学に対してある程度の予備知識があることが前提であると思われます。カントの哲学に潜む「自然主義」的な残滓を暴いていく著者のターゲットは、現象と物自体というカントの認識論の基本的な枠組みをはじめ、純粋知性概念の図式論、判断表に対する疑念など、多岐にわたっています。カント研究の歴史といったものについてはまるっきり疎い私ですが、ロックを(クワインのいう意味での)自然主義のパイオニアとして評価する著者の視点から分析するカント像は、これまでまったく目にしたことのないもので、ある意味ショッキングでさえもあります。

 

本丸の『純粋理性批判』に取り掛かれるのはいつのことになるか解りませんが、ゆっくり取り組んでいきたいと思います。

 

【満足度】★★★★★