『夜と霧』 みすず書房
ヴィクトール・E・フランクル(1905-1997)の『夜と霧』を読了しました。フロイトに師事し、精神医学を学んだ心理学者が、第二次世界大戦時の強制収容所での体験を著した言わずと知れた名著です。しかし、手に取って読むのはこれが初めてのこと。本来であれば、もう少し若い時期に読んでおくべき書物なのかもしれませんが。
本書の原題を直訳すると「心理学者、強制収容所を体験する」となり、すっかり定着してしまった邦訳のタイトルよりもドキュメンタリーとしてはストレートなものです。心理学者としての自らのバックグラウンドを矜持として、どんなときでも冷静に人間心理を捉えようとする姿勢や(むしろそうすることで精神の平衡を保っていたのだと作者自身が吐露していますが)、夜の収容所で「医者としての立場から魂を教導する」ために行った語りかけには率直に感動を覚えさせられます。
フランクルは本書の末尾で収容所から脱出することが出来た人の心に埋め込まれてしまった暴力性について語っています。また戦争で失われてしまったものへの人々の大いなる悲嘆に対しても、精神医として果敢に立ち向かっていこうという決意が述べられます。
【満足度】★★★★☆