文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ナディン・ゴーディマ『バーガーの娘』

ナディン・ゴーディマ 福島富士男訳

『バーガーの娘』 みすず書房

 

ナディン・ゴーディマの『バーガーの娘』を読了しました。彼女の短編作品には何度も感動させられたのですが、長編作品を読むのは初めてのことです。二巻に分冊されたハードカバーの本を持ち歩きながら、主に帰りの電車やホームでの待ち時間で読み進める日々でした。今から振り返ってみると、あまり適した読み方ではありませんでしたが、読書の最中では、語りの位相が断続的に変化して長短の章立てが繰り返される本書の構造はこうした読み方が適しているようにも感じられたのですが。

 

本書では、アパルトヘイト下の南アフリカで黒人解放運動の英雄的存在である父・バーガーの存在のもと、「バーガーの娘」として生に直面するローザの生き様が、上述の多層的な語りのなかで描かれています。個々のエピソードやプロットについて多言を弄することはやめておきたいと思いますが、物語の冒頭で描かれる刑務所の前に立つローザの姿から物語の終盤に至るまで、私にとってローザの存在/自我は一貫して謎めいた不確かな捉えどころのないものでした。それだからこそ逆に、彼女の存在がリアリティをもって感じられるのだと思います。

 

どうでもいい話ですが、分冊された第二巻のノンブルが第一巻の最終ページの数字から続いたものになっていて、少し面食らいました。

 

【満足度】★★★★☆