文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

カズオ・イシグロ『浮世の画家』

カズオ・イシグロ 飛田茂雄訳

浮世の画家』 ハヤカワ文庫

 

カズオ・イシグロ(1954-)の『浮世の画家』を読了しました。学生時代に中公文庫で読んでいたのですが、ハヤカワ文庫での読み直しとなりました。『日の名残り』と同じように、特に再編集はなくまったく同じ訳文が別の版元の文庫として収録されたというもののようです。

 

本書は戦後まもなくの時期の日本を舞台にした小説で、過去や記憶、そしてそれに基づく現在認識をめぐる意図的ないし非意図的な改ざんと欺瞞の物語です。本書の主人公である画家の小野は、『遠い山なみの光』に登場する緒方さんのように、戦後のドラスティックな価値観の転換に強いわだかまりを抱きながら、過去と現在を自分のなかで変容させながら生きているのですが、その姿が長編第二作目となる本書ではより精緻な仕方で描かれています。

 

【満足度】★★★★☆