文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ドン・デリーロ『ポイント・オメガ』

ドン・デリーロ 都甲幸治訳

『ポイント・オメガ』 水声社

 

ドン・デリーロ(1936-)の『ポイント・オメガ』を読了しました。本文にして150ページ足らずの中編作品で、美術館(ニューヨーク近代美術館なのでしょう)とカリフォルニア州サンディエゴの砂漠という二つの舞台に、主要な登場人物は4名というミニマルな設定で描かれています。

 

美術館ではヒッチコックの『サイコ』を24時間の長さに引き伸ばして上映する現代芸術を飽くことなく眺め続ける匿名の男の姿が、そしてサンディエゴの砂漠では、かつてイラク戦争にブレーンとして参加したリチャード・エルスターという初老男性とその娘、そしてエルスターのインタビュー映画を撮影しようとするジム・フィンリーという男の姿が描かれます。本書の中にあるのは物語というよりは、ある種の「瞬間」を掬い取ろうという試みのように思われます。本書のタイトルにもなっている「オメガポイント」との邂逅を夢想しながら、同時にその夢想も欺瞞へと解体していく様子が描かれているように感じました。

 

【満足度】★★★☆☆