カズオ・イシグロ 古賀林幸訳
『充たされざる者』 ハヤカワ文庫
カズオ・イシグロ(1954-)の『充たされざる者』を読了しました。本書は彼の長編第四作目にあたる作品で、彼が現在までに発表している長編小説で未読だったのは本書だけです。『日の名残り』に続いて書かれた本書は、文庫本にして900ページを超える大部の作品となっています。
しかし、その分量に反して、小説の内容はといえば、内に閉じこもるような逼塞感を感じさせるものになっています。中央ヨーロッパの国のとある町、そこで開催される「木曜の夕べ」という催しで演奏するために町を訪れたピアニストのライダーは、町で出会う様々な人から、彼にとっては無関係と思われる様々な頼まれごとを受けます。その頼まれごとに対応している間に、何の準備も叶わないまま「木曜の夕べ」開催が迫ってくる…という本書の不条理な展開は、カフカの『城』にも比されることがあるようです。
正直にいえば、それほどは面白く読むことができなかったというのが初読の感想です。長すぎる遠回り自体をうまく楽しむことができなかったのでしょう。誰もが漠とした不安に囚われた世界にのめり込む時は、私にとって今ではなかったということかもしれません。
【満足度】★★★☆☆