文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

J・M・G・ル・クレジオ『大洪水』

J・M・G・ル・クレジオ 望月芳郎訳

『大洪水』 河出文庫

 

J・M・G・ル・クレジオ(1940-)の『大洪水』を読了しました。本書は彼のデビュー作である『調書』以前い書き始められたと言われる初期の長編作品です。「初めに雲があった」という言葉から始まるプロローグと末尾のエピローグを挟んで、主人公の青年ベッソンの13日間にわたる彷徨の様が全13章の構成で描かれます。

 

女友達(でしょうか)がテープレコーダーに吹き込んだ、バラ色の錠剤を飲むことで自殺をほのめかす独白を聞くことから始まったベッソンの冒険は「太陽にむかって眼を開き、二度と閉じようとしなかった」ことによる失明へと行き着くのですが、そこに至るまでにベッソンがくぐり抜けたモノや情報の“大洪水”は、現代に生きる私たちにとって、本書が書かれた当時(1966年)にも増して、より身近な身体感覚として受け取ることができるものであるように思います。そして、先にも述べた「初めに雲があった」という冒頭からの圧倒的な描写は、“情景をこのように描き切ることができるものなのか”と、久しぶりに文章というものの力に瞠目させられるものでした。比類なき才能に、たちまち魅了されてしまう、という経験でした。

 

引き続き、ル・クレジオの作品を読み継いでいきたいと思います。

 

【満足度】★★★★★