ウラジミール・ナボコフ 奈倉有里・諫早勇一訳
『マーシェンカ キング、クイーン、ジャック』 新潮社
ウラジミール・ナボコフ(1899-1977)の『マーシェンカ キング、クイーン、ジャック』を読了しました。ロシア語で書かれた初期の作品を中心に、英語から重訳ではなく、ロシア語からの翻訳を中心にラインナップした選集『ナボコフ・コレクション』の一冊です。ナボコフの場合、第二言語である英語で優れた作品を書いていて、さらにはロシア語で書いた作品を自ら英語で書き直したりしているので、その異同も含めて研究の対象になるのですが。
「マーシェンカ」は叙情的な(少なくともそのように見える)作品で、鮮やかで美しい追憶の中のロシアの夏の描写が胸に残ります。その一方で主人公の現在を描くパートでは、「影を売る」仕事で糊口をしのぐベルリンでの生活をモノクロームの世界として描出しています。エレベーターの暗闇に閉じ込められる冒頭のシーンはその典型として感じられました。
「キング、クイーン、ジャック」は、若いフランツにドライヤー氏がデパートにおけるセールストークを叩き込むシーンが印象的で、ナボコフらしい文章だなと感じるのでした。
【満足度】★★★★☆