文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

フォークナー『アブサロム、アブサロム!』

フォークナー 藤平育子訳

アブサロム、アブサロム!』 岩波文庫

 

フォークナー(1897-1962)の『アブサロム、アブサロム!』を読了しました。解説によれば、フォークナーは本書が完成したときに「アメリカ人によってそれまでに書かれた中で最高の小説だと思う」という自負を述べたとのことですが、たしかにそれだけの器の大きさを感じさせられる作品でした。少なくとも、いまだ書かれざる「偉大なるアメリカ小説」の候補として本書が挙げられたとしても、それに反対する意見は少ないのではないかと思います。

 

ウェスト・バージニアの片田舎で生まれたトマス・サトペンという男が、南部のミシシッピ州にあるヨクナパトーファ(フォークナーが案出した架空の土地)で農場主として財を築きながら、やがて一族ともども滅びを迎えていく様子を描いたのが本書なのですが、物語自体はこのように直線的な仕方で語られるわけではなく、時制や語りの主体を入れ替えながら、まるで謎めいた神話のような物語として、読者である私たちに提示されます。ガルシア=マルケスやバルガス=リョサといった「方法に自覚的な」作家に大きな影響を与えているフォークナーですが、たしかに本書に見られるような語りの手法や構造こそが、この小説の魅力を一段と高めていることに間違いはないと感じます。

 

今回読んだ岩波文庫は、冒頭に登場人物表や家系図、また各章の語りについての解説が置かれており(さらに下巻には作中のエピソードが年表形式で時系列にまとめられています)、読者にとっては極めて親切設計です。同じく岩波文庫トルストイの『戦争と平和』を読んだときは、こうした「付録」が大変役に立ちましたし、今回もこの親切設計のおかげで本作の見通しが格段に良くなったことは確かなのですが、初読のときから作品の「絵解き」を楽しみたい上級者にとっては、別の版で読むのが良いのかもしれません。

 

【満足度】★★★★☆