文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

J・M・クッツェー『サマータイム、青年時代、少年時代 ―辺境からの三つの〈自伝〉』

J・M・クッツェー くぼたのぞみ訳

サマータイム、青年時代、少年時代 ―辺境からの三つの〈自伝〉』 インスクリプト

 

J・M・クッツェーの『サマータイム、青年時代、少年時代 ―辺境からの三つの〈自伝〉』を読了しました。もともとは『少年時代』、『青年時代』、『サマータイム』という別々に出版された自伝的作品を、あらためて一巻にまとめたのが本書です。なかでも、クッツェーが作家としてのスタートを切った頃の時期を描いた(?)『サマータイム』は、彼自身にとって三度目となるブッカー賞候補作になるほど(受賞はなりませんでしたが)の評価を受けています。

 

上でクエスチョンマークを付けざるを得なかったのは、本書が「自伝的」作品ではありながらも、虚構を織り交ぜて書かれたものだからで、そのあたりの解題は本書の解説でも詳しくなされています。アフリカーンスとしての自己同定、「世界文学」の希求、自意識、家族との距離感、セックス、安易な理想。ひとりの男の人生に向けられた第三者的な批評意識とユーモアのバランス感覚が優れている点には、いつもの通り感心させられるのですが、この長い長い自伝を読み終えた今の段階では、まだ私の中で消化不良な部分もあります。果たして何年後のことになるか解りませんが、いつかまた読み返してみたいと思います。

 

【満足度】★★★★☆