文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

G・ガルシア=マルケス『迷宮の将軍』

G・ガルシア=マルケス 木村榮一

『迷宮の将軍』 新潮社

 

G・ガルシア=マルケス(1928-2014)の『迷宮の将軍』を読了しました。コロンビア出身でラテンアメリカを代表する作家の一人であるガルシア=マルケスが、本書『迷宮の将軍』を発表したのは1989年のこと。本書はラテンアメリカ解放運動の英雄であるシモン・ボリバルの晩年を題材に採った歴史小説です。

 

マジックリアリズムの手法で文体にも細心の注意をはらって書き上げられた彼の以前の小説群と比べると、本書を一読して、その伸びやかで自由な作風に軽い驚きを覚えます。『百年の孤独』、『族長の秋』、あるいは『予告された殺人の記録』などの作品に見られた、ある種の使命感と計画性の代わりに、本書においては、作者の生真面目さは歴史小説を著すにあたっての資料集めやインタビュー等に費やされたようです。そしてこの生真面目さは、リアリズムの小説を書かせてもやはり一筋縄ではいかない作家の特性として、主人公である将軍=シモン・ボリバルの中によく表れています。

 

「いったいどうすればこの迷宮から抜け出せるんだ!」

 

「マジック」を抑制して書かれたリアリズム小説の果てで(また彼の人生の終局で)主人公である将軍がため息交じりに吐き捨てる台詞は、単なる英雄譚ではない歴史の複雑さを物語っています。

 

【満足度】★★★★☆