文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ウラジミール・ナボコフ『ルージン・ディフェンス 密偵』

ウラジミール・ナボコフ 杉本一直・秋草俊一郎訳

『ルージン・ディフェンス 密偵』 新潮社

 

ウラジミール・ナボコフ(1899-1977)の『ルージン・ディフェンス 密偵』を読了しました。本書は新潮社の「ナボコフ・コレクション」の一冊で、ナボコフの初期作品についてロシア語からの初訳や初邦訳となる作品群がラインナップされています。『マーシェンカ キング、クイーン、ジャック』、『処刑への誘い 戯曲 事件 ワルツの発明』に続いて、三冊目の読書となります。

 

チェス・プロブレム作家としても知られるナボコフがチェスを題材に執筆した小説が『ルージン・ディフェンス』なのですが、これは同時に、エキセントリックな人物の一生を描いた小説でもあります。ルージンの生をチェックメイトに導くために、ナボコフは「神」の視点から様々な布石を打っているようですが、それらを一つずつひも解いていくのが読書の楽しみとなります。ところどころに登場する片腕の男など、やはりナボコフは昔からナボコフなのだと思わされます。

 

密偵』は不思議な作品で、後年のナボコフ本人による英訳では『目』と改題されています。不倫の咎で暴行を受け、拳銃自殺する主人公が、「想念の死後の滑走」として亡命ロシア人コミュニティのなかでスムーロフという男の観察を続けるという物語。何ともいえない結末を迎える本作品のテーマは、訳者解説によると人称をめぐる試みにあるようなのですが、それを面白がるところまでは至れなかったというのが今回の初読の正直な感想です。

 

【満足度】★★★★☆