イアン・マキューアン 村松潔訳
『憂鬱な10か月』 新潮社
イアン・マキューアン(1948-)の『憂鬱な10か月』を読了しました。本書の原題は“Nutshell”で、直訳すると「胡桃の殻」の意です。これは本書のストーリーのモチーフとなり、巻頭のエピグラフでも引用されているシェイクスピア『ハムレット』に由来する言葉なのですが、ひねった邦題を付けることにこだわる(?)村松氏は『憂鬱な10か月』というタイトルに落ち着かせています。このタイトルが示唆するとおり、本書は母親の胎内で外界の人間模様に苦悩する胎児を主人公とした、現代版「ハムレット」の物語です。
時折クスッとさせられながら、相変わらずの筆のうまさに感心しつつ、文学作品としてはどこか物足りなさを覚えてしまうのもいつものことなのですが、これくらいの小品の方がマキューアンの本領は発揮しやすいのではないかという気もします。
【満足度】★★★★☆