文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

マルティン・ハイデッガー『存在と時間』

マルティン・ハイデッガー 細谷貞雄訳

存在と時間』 ちくま学芸文庫

 

マルティン・ハイデッガー(1889-1976)の『存在と時間』を読了しました。いわずと知れた20世紀における哲学上の主要著作のひとつですが、21世紀の現在においてはどのような評価になっているのでしょうか。筒井康隆氏が数年前に『誰にもわかるハイデガー』を上梓していましたが(私は未読ですが)、少なくとも筒井氏は現代においてこそハイデガーの思想を問うてみたいと考えたということなのでしょう。

 

本書においてハイデガーは哲学のなすべき仕事を「存在論」として規定するのですが、その仕事は彼が「現存在」と呼ぶところの私たち人間の有様を「現象学的に」解釈することによって果たされるものであると主張されます。哲学にとって真に重要である「存在への問い」を私たち人間の日常性を分析することによって「取り戻して」みせようとするハイデガーの手筋は、かつての私がそうであったように、たしかに多くの若者の心を捉えるのかもしれません。

 

しかし「その先には一体何があるのか」と私たちがあらためて問うてみたときに、その答えは「哲学とは一体何を目指す学問なのか」という問いに対する答えと同様に、ひとつの隘路を指し示してしまうような気がしてなりません。一方で、たとえば本書においてハイデガーが示してみせた分析が、まったく何の意味もなかったものだとは言い切れない部分があって、本書を読むときに生まれる相変わらずの熱狂とそれを突き放す冷淡さと、その両方が拠って出るところものを見極めることが肝心なのだと思います。

 

【満足度】★★★☆☆