文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ロベルト・アルルト『怒りの玩具』

ロベルト・アルルト 寺尾隆吉訳

『怒りの玩具』 現代企画室

 

ロベルト・アルルト(1900-1942)の『怒りの玩具』を読了しました。ブエノスアイレスに生まれたアルゼンチンの作家であるアルルトは、ボルヘスとほぼ同時代の作家でありながら、まったく文学的な志向性の異なる作家として、近年は特に評価の高まっている作家です。

 

本書では、主人公「私」が盗みに明け暮れる少年時代から、書店での心身を滅する過酷な労働の日々、得意の科学的知識を活かす夢を抱いて赴いた空軍学校での挫折、そして紙の仲買人に従事する日々の中である「選択」を迫られることになる事件に至るまでが描かれます。ボルヘスとは異なる「もうひとつのアルゼンチン文学」は短いですが、リアルな生の描写と、たしかに心に残るリリシズムも備えていて、面白く読むことができました。

 

【満足度】★★★★☆