文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

E・フッサール『ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学』

E・フッサール 細谷恒夫・木田元

『ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学』 中公文庫

 

E・フッサール(1859-1938)の『ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学』を読了しました。フッサール最晩年の講義をもとに、未完の末尾に遺稿の一部を付加するかたちで刊行された作品です。自らの超越論的現象学を近世哲学史の流れの中に位置づけるというテーマのもとに、これまでの著作以上に過去の哲学思想家への言及が多く見られます。相変わらず評価の高いデカルトに加えて、ヒュームやカントあたりはそれなりに評価されているのですが、ロックについては単なる心理学者として片付けられてしまっています。

 

本書のもとになった講義や草稿が記されたのは1935年から1936年頃のことですが、先日読んだ“Language, Truth and Logic”は1935年の著作ですので、ほぼ同時期であることになります。後者が経験による検証を行うことができない命題を「形而上学」として無意味であると切って捨てるのに対して、フッサール実証主義のアプローチを「主観性」の正しい有様を捉えることのできない方法として役に立たないものであると述べます。もちろん互いに言及があるわけではないのですが、両者の哲学観は完全にすれ違ったままです。分析哲学現象学を架橋する試みはいくつかあると思うのですが、両者の間の根本的な断絶というものは確かにあって、それが何かということを見定めるには本書が良い入り口になっていると思います。

 

【満足度】★★★★☆