文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ミロラド・パヴィチ『ハザール事典 夢の狩人たちの物語[男性版]』

ミロラド・パヴィチ 工藤幸雄

『ハザール事典 夢の狩人たちの物語[男性版]』 創元ライブラリ

 

ミロラド・パヴィチ(1929-2009)の『ハザール事典 夢の狩人たちの物語[男性版]』を読了しました。現在のセルビアベオグラードで生まれたパヴィチが書いた奇妙な書物である本書は、木原氏の『実験する小説たち』でも取り上げられていました。かつて実在し、歴史からは姿を消したハザール族を巡る「事典」の形式で書かれた小説が本書です。

 

本書のユニークさは「事典」形式という点のみにあるのではなく、主題であるハザール族が、複雑な歴史的・文化的な交錯の下にあったという事実も、本書の企みを深めています。たとえば、ハザールの王女である「アテー」を巡る事典の記述は、キリスト教関係資料、イスラム教関係資料、ユダヤ教関係資料のそれぞれにおいて異なるもので、それらを読み比べるだけでも楽しむことができます。さらには本書の「男性版」と「女性版」の存在が、小説としてのオチもつけていて、贅沢な構成になっています。

 

【満足度】★★★☆☆