文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

クッツェー『鉄の時代』

クッツェー くぼたのぞみ訳

『鉄の時代』 河出書房新社

 

クッツェー(1940-)の『鉄の時代』を読了しました。池澤夏樹氏による個人編集の「世界文学全集」の一冊ですが、最近になって文庫化されたようです。その前に本書を購入した私は、タイミング的にどこか損をした気分になってしまうのですが、最近の文庫本の価格の高さを思うと、実際のところはコストパフォーマンスの面でそれほど損をしているわけではないのかもしれません。

 

本書は南アフリカを舞台に反アパルトヘイトの時代を描いたクッツェーの作品です。初老の女性がアメリカで暮らす娘に宛てて書く遺書のかたちで、その「鉄の時代」の黒人のあり方と、それと同時に白人のあり方が描かれています。キーワードとして浮かび上がってくるのは「恥」であり、その恥の意識に仮託された屈折した思いの様相こそが、クッツェー南アフリカの現実に向き合うときの一つの鍵になっているように感じられました。

 

【満足度】★★★★☆