文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

カルヴィーノ『まっぷたつの子爵』

カルヴィーノ 川島英昭訳

『まっぷたつの子爵』 岩波文庫

 

カルヴィーノ(1923-1985)の『まっぷたつの子爵』を読了しました。本書は戦後のイタリアを代表する作家のひとりであるカルヴィーノが比較的初期に発表した作品です。戦中・戦後のイタリアを代表する文学運動であり、カルヴィーノ自身も深い影響を受けたといわれている「ネオリアリズモ」の手法とは一見したところ対極的に見える寓話性を備えた作風で、カルヴィーノが彼独自の文学路線を歩むきっかけになった作品であるとも言えるかもしれません。

 

舞台は18世紀のトルコ対オーストリア戦争に始まり、その戦地でトルコ軍の大砲によって文字通り「まっぷたつ」になってしまったメダルド子爵は、半身の姿で故郷に現れて残忍な悪行を行うのですが、やがてもう半身の方も現れてこちらは慈悲の心で村人に善行を施していきます。この物語はメダルド子爵の甥である「ぼく」の視点から語られるのですが、その少年の目を通した世相こそがカルヴィーノが描きたかったものなのかもしれません。本書の末尾で少年の青春時代の終わりが語られているのが印象的です。

 

【満足度】★★★☆☆