グレアム・スウィフト 真野泰訳
『ウォーターランド』 新潮社
グレアム・スウィフト(1949-)の『ウォーターランド』を読了しました。現代イギリス作家であるスウィフトの小説を読むのは中編作品『マザリング・サンデー』に続いて二冊目となります。本書は翻訳で500ページを越える長めの長編作品です。
歴史教師トム・クリックは、妻が引き起こした嬰児誘拐事件を契機として、校長ルイスから失職を迫られる立場にあります。トムは「一体歴史に何の意味があるのか」と問いかける生徒の言葉に対峙するかのように、授業のカリキュラムを逸脱して、フェンズと呼ばれる土地にまつわる自身と妻の一族に関わる歴史や、若き日の記憶を生徒に向かって語りかけます。本書帯に書かれたコメントを引用するならば「殺人ミステリーであり、一族の秘められた歴史であり、イングランドの水郷フェンズという土地そのものの記録であり(そしてなんと、ウナギをめぐる考察という驚くべき脱線もあり)、歴史の意味についての思索でもある」という何とも贅沢な作品となっています。
非常に緊密で優れた構成を持つ作品だと思いますし、感動を覚える場面も多々あります。たとえ筆のうまさが目についてしまったとしても、それを上回るパワーを持った作品でした。
【満足度】★★★★☆