オルハン・パムク 宮下遼訳
『雪』 ハヤカワ文庫
オルハン・パムク(1952-)の『雪』を読了しました。トルコのノーベル文学賞受賞者オルハン・パムクの現代小説です。以前に読んだ『わたしの名は赤』がオスマン=トルコ帝国時代を舞台にした歴史小説であったのに対して、本作は現代トルコにおける「イスラム主義」や「世俗主義」といった生々しい政治的・思想的対立が物語の主題となっています。
極めて現実的な課題が物語の前景に立ち現れている一方で、作品の舞台になっている雪に閉ざされた地方都市カルスの情景はどこかファンタジックであり、主人公である詩人「Ka」のその特異な名前や、様々な政治的グループの間をメッセンジャーのように渡り歩く様子は、カフカの未完の作品を連想させます。主人公に訪れる詩想や、想い人であるイペキとの運命など、純文学的な要素も欠けてはいないはずなのですが、それでもなぜだかこの作品には「主流文学らしさ」が感じられないのは一体なぜなのでしょうか。
【満足度】★★★☆☆