文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

スティーヴン・ミルハウザー『エドウィン・マルハウス』

スティーヴン・ミルハウザー 岸本佐知子

エドウィン・マルハウス』 河出文庫

 

スティーヴン・ミルハウザー(1943-)の『エドウィン・マルハウス』を読了しました。本書は1972年に発表された著者のデビュー作品で、フランスのメディシス賞外国語部門を受賞しています。原題は“Edwin Mullhouse: The Life and Death of an American Writer 1943-1954, by Jeffrey Cartwright”で、本書のたくらみの多くがこのタイトルの中においてほのめかされています。

 

若干11歳にして傑作『まんが』を遺して夭逝した天才作家エドウィン・マルハウスの生涯を、その友人であるジェフリー・カートライトが綴るという、いわば伝記作品のパロディなのですが、その作品の構成が「幼年期(0歳~5歳)」、「壮年期(6歳~8歳)」、「晩年期(9歳~11歳)」と分けられていることに、クスリとさせられます。そして読み進めるうちに解ってくるのは、これはエドウィン・マルハウスの物語でありながら、伝記作家として目覚めることになるジェフリー・カートライトの物語であるということです。圧巻のラストは誰かに語りたくなる秘密の影を私たちに見せてくれます。

 

【満足度】★★★★☆